誰かのふとした一言や行動から、嫌な思い出が一気に良い思い出へと変化する。
みなさん、そんな経験はありませんか?
今回はとあるカフェで起きた、店員さんのちょっとした行動で嫌な思い出しかなかったカフェが一気に思い出の地へと変わった体験のお話をします。
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先日引っ越しをしました。
僕はここ3年ほど転職活動をしておりまして、前々から行きたかった企業の内定が出て、それにより引っ越すことになったのです。
20代後半になってから未経験エンジニアとして弱小メーカーに入り、そこから大手への転職を志望していたため長らくスキルアップのための勉強を続けていたのですが、そこで勉強のために頻繁に利用していたカフェがありました。
そのカフェは当時よく利用していたイオンの中に入っていることもあり、また、夜遅くまで営業していたこともあって週2回以上は利用していました。少なく見積もっても直近の3年間で合計200回以上は通ったでしょう。僕があまりにもそのカフェに通うことからその店の店員さん全員とうっすら喋る仲にまでなっていました。
あの頃は誇れるものが何もない自分にほとほと嫌気が差して早く転職できるよう黙々と勉強を続けていたのですが、30歳を目前に彼女もいなければ友達とも遊ばず、ただ目の前の勉強に取り組むというのはなかなか辛い作業でした。
特に一人暮らしをしながら仕事が終わったあとで勉強しようと思っても1日1時間勉強するのがやっと。自分なりには頑張って勉強時間を確保しているつもりですが、とはいえそれだけの勉強量では成果はそんなに早く出るものではありません。
カフェには比較的人が少ない時間帯に行ってはいましたが、それでもやはりカップルやファミリーがどうしても目に入ってしまうものです。調子がいいときはまだ大丈夫ですが、仕事や資格試験でうまくいっていないときにそういった人たちを目にすると持たざるものである自分が本当に情けなくなってしまうのでした。
そうして勉強を続けていると今からちょうど1年ほど前にとある男性のスタッフがそのカフェに入店してくることになります。
年齢は24~5歳ぐらいと僕よりも年下ではあるのですが、ケイン・コスギに似た好青年でして誰に対しても非常に爽やかな接客をしてくれるのです。見た目の清潔感と丁寧な接客態度から当然のことながらまたたく間に人気店員となり、特におばさま達からはしょっちゅう絡まれていたのをよく覚えています。
そして僕もその店員さんからはよく声をかけてもらっていまして、レジで注文する際やコーヒーの受け渡し時にひとことふたこと雑談を振ってくれていました。とはいえ相手が男性店員だと "店員さんと客" の関係で雑談を広げるのが意外と難しく、せっかく話を振ってくれていても毎回うまいこと返せず「申し訳ないなぁ」と思うのでした。
そうこうしているうちに僕の転職活動も終りを迎え、志望企業の内定と共に引っ越すこととなりました。そして引っ越し最終日、街で一番思い入れの深かった場所である例のカフェに行くのでした。
いつも行っていた曜日・時間帯に赴いてみると例の店員さんがいました。
- 転職が決まって引っ越すので、カフェに来るのが今日で最後
- お兄さんの接客態度は本当に素晴らしいと思っていた
ということを簡潔に伝えました。
すると向こうが突如「コーヒーと紅茶、どちらがお好きですか?」と聞いてくるので、意図は分かりかねるものの「…紅茶ですかね」と答えました。
「ではお待ち下さい」と一度バックヤードに消えたかと思うと、店で販売しているティーバッグセットを "今日で最後" なのと "いつも利用していただいていたので" ということでプレゼントしてくれたのです。(話を聞いてみるとその店員さん、途中から店長に昇格したとのことでした)
最後には転職が成功したとはいえ、そのカフェには良い思い出がなく、正直苦しい思い出しかありません。看板を見ただけでも色んな辛かった思い出が蘇り、うっすらと涙が溢れてきます。
ですが最後の最後でこんな粋な計らいをしてもらえ「あぁ、自分はとても幸福な場所で勉強をできていたんだな」と知ることができました。そのカフェは苦い思い出の場所から最高の思い出の場所へと変わりました。
最後のやり取りは正味2~3分も喋ってはいませんでしたが、それまでカフェで勉強していて数百時間分の想いがすべて塗り替えられました。
もう二度と来ることはないのかな、と思っていた場所ですが、生涯何か行き詰まることが基本に立ち返るということで何度でも来ようと思います。