AmazonPrimeで『フォーカス』を観ました。
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上映時間
105分
オススメ度
星5点満点中:★★★★
ストーリー
30人の熟練詐欺師集団をまとめるニッキー(ウィル・スミス)は、半人前な女詐欺師ジェス(マーゴット・ロビー)に可能性を見いだし、一流の犯罪者にすべくノウハウを伝授する。やがて二人は恋に落ちるが、恋愛は自分の仕事の邪魔になると判断しジェスのもとを去る。数年後、ニッキーが一世一代の詐欺を仕掛けるブエノスアイレスのモーターレース会場で、一段と美貌に磨きをかけたジェスと再会する。 <Yahoo!映画>
感想
2015年に公開されたウィル・スミス主演『フォーカス』。共演は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でブレイクしたマーゴット・ロビー。
本作のように詐欺師による騙し合いを描いた作品を「コンゲーム(映画)」と呼び、古くは『スティング』、近年では『オーシャンズ11』『ラスベガスをぶっつぶせ』などの名作があります。
僕はこういったコンゲーム映画が好きなため、公開当時は観たいと思っていましたが、全米で公開されても初登場こそ1位を獲得するものの最終的な興行収入は5000万ドルと非常に寂しい結果に。ウィル・スミス主演の映画であれば最低でも1億5000万ドルぐらいはいきたいものです。
そもそも製作費自体も5000万ドルと、ウィル・スミスのようなドル箱スターが出る映画としては非常に低予算なため、「予算を切り詰めすぎて内容がズタズタになったのかな」と思ってハードルを極限まで下げて観てみると意外や意外。これがなかなかの傑作なのです。
雰囲気としてはウィル・スミスの過去の出演作である『最後の恋のはじめ方』をベースに『オーシャンズ11』や『ラスベガスをぶっつぶせ』のエッセンスを加えたような、全体的にオシャレでカップルで観るには最適なエンターテイメントムービーになっていました。
全編を通じた爽快な騙し合い
僕はこの映画を観ていて思わぬ展開に2回ぐらい本気でのけぞってしまいました。
普段から映画はよく観る方で、『ハリウッド脚本術』のようなハリウッド映画の脚本の裏側を研究する本も読んでいる身であるため、映画を観ているとある程度ストーリーの筋は読めてしまうタイプなのですが、この映画に関しては見事に裏切られました。
「普通のハリウッド映画ならこういう展開になるよな」「あー、そうそう、ウィル・スミスの映画ってだいたいこんな感じなんだよ」と思っているところに意表を突くような展開が待っています。
この映画は天才的な詐欺スキルを持つウィル・スミスが一時は大成するのですが、自身のスキルを過信し、どんどん泥沼にはまっていく。もうその泥沼演技がハマりにハマッていて、観ているこっちも段々と本気になっていく。隣にいるマーゴット・ロビーも泥沼にハマッていくウィル・スミスに対して本気でオロオロしだすものですから、こっちまで泣きたくなってくる。
実生活でも、ちょっとスキルに秀でた同僚や友達が最初は勝ってたんですけど途中から負けこんできて、前の負けを取り返すために更に倍を賭けようとする。隣りにいる僕はどうやっても勝てっこないって分かってるものですから止めようとするんですけど「うるせぇ、俺に指図するな!」と逆ギレされ泣きたくなる。そんな経験ってありませんか? 僕はそんな過去の記憶を思わず思い出してしまいました(笑)
本作の脚本家は「こういう展開になれば、観客はこういう感情になるよな」といった観客の感情や「みんなウィル・スミスにはこういうイメージを持っているだろ?」という無意識を非常によく理解しています。
それこそ10分に1度は小気味よく僕らの期待を裏切ってくれるので、映画全編を通してダレることがありませんでした。
また実際のスリの達人が監修したと言われるスリのシーンですが、ウィル・スミスからスリの手ほどきを受けたマーゴット・ロビーが次々と金持ちの男から金品を奪っていくシーンが犯罪行為とはいえ非常に爽快でした。
チームで流れるように次々と金品を盗っていく。特に肌に直接身につけている高級時計を奪い取る技術には驚嘆してしまいました。まぁ後からよく考えるとあんなこと絶対に無理で、盗られたら絶対に気づかないわけがないのですが、映画を観ている間はそんなことに意識が行かない。
というよりも僕自身、この映画に出てくる詐欺グループに狙われたら相当簡単に金品を奪われちゃうようなぁなんて思いながら観ていました。
嫌なヤツがいないという安心のエンターテイメント
映画を面白くする要素として「魅力的な悪役」の存在は必要ですが、ときどき「魅力的な悪役」を履き違えて「ただただムカツク悪役」が出てきたりします。そのムカツク悪役を最後にキッチリと懲らしめて、主人公もハッピーとなればいいのですが、その辺りがうまくいってない映画も多く、ただなんとなく悪役にイライラさせられて終わりということも多いです。『ターミネーター2』で言えばT-1000、『スターウォーズ』で言えばダースベーダーのように、悪役は必ずしもイラつく存在でなくても十分面白くな。
そういった点で本作『フォーカス』は悪役がほとんど登場しなかったため、非常に安心して観ていられました。
3幕モノの構成とオチの弱さ
『フォーカス』については全編非常に楽しく観れたものの、気になる点が2点ほど。
1つ目はお話の構成。
本作の構成としては3幕モノになっています。1幕はウィル・スミスがマーゴット・ロビーに詐欺の手口を教え込み、最初のヤマ場に乗り込むところ。2幕は中国人大富豪とのギャンブル対決。3幕がモーターレースチームでの詐欺。
この映画、意外なことに全体を通したテーマが無いんですね。
普通のコンゲーム映画ですと、最初に天才的なスキルを持った詐欺師が大勝ちします。そして今後の人生も安泰、もしくはこれで引退だと思っているところで思わぬ事件に巻き込まれ、財産から仲間まですべてを失います。詐欺はこれっきりだと思っていたけれども仕方なく業界に戻るしかなくなり、そして主人公は自分の人生を賭けた最後の大勝負に出る。こんな感じになるはずです。
ところが『フォーカス』となると最終的にウィル・スミスが何をやりたかったのかがちょっと弱い。マーゴット・ロビーとの恋を成就させたいというテーマはあるのですが、それをメインプロットに据えようとするならばちょっと描き込みが浅い気がします。
2つ目はラストのオチ。
オチに至る一個前の仕掛けに関しては「おおっ!」と思ってしまいましたが、大オチ自体はロジックもクソもない力技の解決方法で、「今までの頭のいい騙し合いは一体何だったんだ!」と思ってしまいました。
数年前にスタローンとシュワルツェネッガーが共演した『大脱出』という映画があるのですが、あの映画は終盤までスタローンが頭のいい(ように見える)緻密な刑務所脱獄計画を練るのですが、結局最後は筋力ですべてを押し切っちゃうんです。あのオチを見たときと同じような気分になりました。(まぁスタローンとシュワルツェネッガーの映画として観たとき、筋肉ですべてを押し切るというのはある意味正しい姿でもあるんですけどね)
ウィル・スミスは毎回のオレサマ演技なわけですが、それをも逆手に取ってしまった映画『フォーカス』。確かにあとからよく考えるとツッコミどころは数多くありましたが、観ている間は非常に楽しめる良作でした。
コンゲーム映画が好きな方にはオススメです。
※今回紹介した作品はAmazonPrime会員の無料体験でも視聴可能です。