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考え方

9回2アウト負け越しからのホームスチールをどう評価すべきか

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 非常に興味深い事件が2件立て続けに起こったので、そのことについて書いていきたいと思います。

 ひとつは『コスプレ因習村』事件。

 コスプレイヤーである鹿乃つのさんが漫画『ダンジョン飯』に登場するキャラクター・マルシルの格好で大阪万博に参加したところ、周りからも好評であり、自身も大いに万博を楽しめたとのことでした。他のコスプレイヤーの方に向けても自分の経験をまとめ、noteで発信をしています。

 万博自体は「(良識の範囲内で)コスプレOK」として公認しており、また鹿乃つのさん自身も「公認されているからってなんでもやっていいわけではないよ」と注意喚起をしています。

 このnote自体はバズを呼び、世間的には非常に好意的に受け止められました。
 しかしこれに異を唱えたのは同じくコスプレ界隈の人たち。

 実施にどんなことを言っているかは冒頭のtoggeterを参照してほしいのですが、簡単にまとめてみると

  • 運営がOKと言っていても万博はコスプレ会場ではないので、コスプレは自粛すべき
  • トイレで着替えるのが禁止と言われているのは「コスプレNG」と同意
  • 『ダンジョン飯』公式からコスプレ許諾を得ていないのに大手を振るうな

 とまあ傍から聞いたらいいがかりとしか思えないような批判が相次いだのです。

 通常であればこういったネットの炎上案件も2~3日としないうちに別の炎上案件が出現し、世間の関心もそちらに移るのですが、今回ばかりはいつもと様子が違い1週間近く経っていても炎が鎮火する気配がないのです。

 コスプレ界隈という、普段は世間からのモラルやマナーというものに苦しめられてきたであろう方たちが、その実自分たちの自治区内では世間との価値観から離れたモラルやマナーを強要していたという、まるで因習村のような事実が明るみになったというのも、昨今のインターネット界隈にとってもあまりにもキャッチー過ぎたのでした。人間の管理下から逃れた猿たちが、いざ自分たちでコミュニティを作るとなると、規律を守るためかつて人間が自分たちに行っていたようなルールを強いてしまうという、リブート版『猿の惑星』みたいな展開ですね。

 さて、現在では個人事業主として仕事をしているぐらいコミュニティに馴染めないこの僕ですが、意外なことにコスプレ因習村については好意的とはいいませんが、コンセプト自体について割と共感をしていました。

 鹿乃つのさんが人気急上昇中の若手美人レイヤーであることを妬み、そこを直球で批判できないからって「『ダンジョン飯』公式に迷惑をかけるな」「万博で承認欲求満たすな」ともっともらしい理由をつけるのはどうかと思うものの、「コミュニティ存続のために、ルールとしては禁止されていないことでも、自主規制で個人の制限はやむなし」というのはまぁ分からんでもないんですよ。

 たとえば渋谷ハロウィンコスプレだって、別に個別(個人)としては何もルールに反していないわけですけども、ああやってバカ騒ぎされると別の大きな問題が発生するわけですし、今回鹿乃つのさんを擁護している人だってほとんどは渋谷ハロウィンに対して眉をひそめているでしょう。「鹿乃つのさんは個人の話だが、渋谷ハロウィンは集団だろ」と言ったところで、今回の記事を読んだ有志たちで「万博コスプレオフ!!」とかいって乱痴気騒ぎを起こさない保証はないのです。というか多分そのうち誰かがやる。

 個人の自由はある程度制限されたほうが、回り回って個人の自由が最大化するケースは多々あって、その最たる例が交通ルールでしょう。車の移動などそれぞれがスピードなど気にせずフルスロットルで車を走らせたほうが目的地に最速で着くわけですが、みんながみんなルールも守らず無秩序に走ると事故が起こり、回り回って到着が遅くなるから「みんな信号守ろうね」「車線を変えるときは事前にウィンカー出そうね」となるわけです。

 他にも会社で言えば有給や育休だって労働者の権利なので、一応建前上は好きな時に取ればいいわけですが、現実の問題として「じゃあその抜けた穴って誰が埋めるの?」という話があるわけです。有給や育休は労働者のルールとして好きな時に取れることと、実際に取るために何が必要かは別軸で考えなくてはなりません。「みんな我慢してるんだからあんたも我慢しなさい」というフレーズに対して意気揚々と「みんな我慢してるんだったらそのルール変えたほうが良くない?」と反論する人がいますが、そういう人って「リソース」という存在が認知できてないんですよね。

 僕自身、個人事業主として仕事を始める前に会社を辞めてフィリピンに語学留学に行ったのですが、その際に会社から「今すぐ辞めると言わず、休職して行くのはどうだ?」と提案してもらったことがあります。しかしそれに対して僕はこう返しました。

 休職を提案していただいて大変嬉しく思っています。けれども僕はこの会社が語学留学で休職を認めるような会社組織であってほしくないと思います。もし僕が大学院に入ってそこで「制御工学を学ぶ」というのであれば休職を認めるのも問題ないでしょう。なぜなら大学院で学んだことが現場の業務にフィードバックされるので、周りの方も僕の休職の調整のしがいがありますから。

 百歩譲って僕が大学の交換留学で英語を学びに行くのであればギリギリ良いかもしれません。けれど僕が行くのは本当に勉強するのかも分からない、語学学校ですよ? ここで僕が語学学校に行くのを休職で認めてしまったら「東城が語学学校で休職が認められるなら自分だって」と他の社員も必ず言ってきます。そのときに会社として規律が守れますか?

 今は僕が会社を辞めると言って、まるで自分が否定されたような気持ちになってとりあえず「休職はどうだ?」と言ってもらっていますが、これも数ヶ月したら「なんでアイツを語学学校で休職させたんだろ」と思いますし、今後の出世競争でも「あいつは休職するやつだもんな」と選考から外すようになると思います。

 だから休職の提案をしていただいて本当に嬉しいですが、そこは筋を通したいので辞めさせて下さい。

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 もうひとつの事件が『令和ロマンくるま、吉本との契約終了』事件です。

 数年前にオンラインカジノをやっていたことで警察から事情聴取を受け、活動を自粛していたお笑いコンビ・令和ロマンの高比良くるまさんが、この度吉本興業との契約が終了になったとのことです。

 契約終了になった事の発端はオンラインカジノよりも、報道後に謝罪動画を会社との相談なしにアップしたことが原因だそうです。これにはネットでも「なぜあんなにも迅速かつ的確な対応を取ったくるまをクビにするんだ」との声が巻き起こっていますが、僕としてはこちらも「まぁクビはやむなしかなぁ」と思いました。

 今回に関しては野球で言えば「9回2アウトで負け越しているときに、独断でホームスチールを決め同点に持っていった男をどう評価するべきか」という問題なんですよ。野球に興味がない人向けに言えば「監督のバント指示を無視してホームランを打った男をどう評価するべきか」という問題でもあるでしょう。今回たまたま良い結果になったからよかったものの、悪い方向に転がっていたらどうするつもりだったの? と。

 これは芸能界が個人事業主の集まりのような特殊な集まりだから筋が見えてこないのですが、例えばこれがトヨタでとある車に欠陥が見つかった場合、そこの部分を担当したエンジニアが独断で謝罪動画をYouTubeにアップしたらどうなるかという話です。会社として「欠陥はどういうメカニズムで起こるのか」「どの車が対象になるのが」「対処方法は見つかっているのか」「会社として対処はどのように進めていくのか」を決めないといけない中で、ひとりの社員が独断で突っ走れば計画が狂います。

 今回のくるまさんの件に関しても、オンラインカジノは数年前まで公共の電波でもCMが打たれていたので、ワンチャン「当時は違法という認識がなく、また時効ということもあり、改めてコンプライアンス研修を受けるということで活動自粛はなしとします」という対処方法もあったかもしれません。

 ところが謝罪動画を出してしまったせいでくるまさんは完全なクロとなってしまいました。そうなると放送が予定されていたテレビ番組や出演中のCMは即時取り下げないわけにはいきません。そもそもくるまさんは書類送検すらされていない任意の事情聴取で(というよりも時効のため、罪に問うこと自体不可)、グレーゾーンもグレーゾーン。勝手に謝罪動画を出されると関係者は即座に対応を迫られます。ましてや一人だけ謝罪動画を上げるとなる「他の芸人は謝罪しないのか?」という話にもなってきます。

 僕はくるまさんが謝罪動画を出したときに世間から「クレバーだ」と称賛されていたときに「いや、クレバーでもなんでもないだろ」と反対の声を上げていました。切らなくていい腹を切ればそれに周りは何も言わないでしょう。本当にクレバーな対応は「いかに必要以上に腹を切らないか」なので、今回の対応クレバーとは反対な行為に見えました。

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 何と言うか、このあたりの話は会社員としてマネージメント層に行かなくとも、後輩一人ぐらい育てるポジションになれば分からなくもない話だと思うんですけどねぇ。新卒のころに「ルールで明記されてるわけでもないのにいちいちうるせぇな」と思っていたことでも、いざ自分がコミュニティを運営するポジションに回ってみると「今まで理不尽に思えたあのルールも、コミュニティを維持するために必要なルールだったんだ」と気づきます。

 僕自身はどちらかというとそういう「ルールをハックする側」の人間だからこそ分かるのですが、人って自分にとって都合の良い方に流れるものなので大手を振るって「これはルールに書いてないからやったほうがいいよ!」と言うとみんなやるようになってしまうんですよね。まぁそういうのが分かっているからこそ「俺は組織運営はやれねぇなぁ…」と思って個人事業主になったのですが。

 世の中白か黒かの二色で決められないことも多いので、そこは節度を持ってグレーのままにしておこうやと思った一件(正確には二件)でした。



 

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