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この世で唯一ベタを許されたフランチャイズの微妙なベタ外し『ベスト・キッド:レジェンズ』

 映画館で『ベスト・キッド:レジェンズ』を観ました。

 アクション映画好きであれば当然の如く観ている『ベスト・キッド』。

 僕も『ベスト・キッド』は好きな作品ではありますが、このフランチャイズの最新作が制作されていることは全く知らずに映画館で偶然予告を見かけ「ラルフ・マッチオ版とジャッキー版のユニバースが合流するなんて面白くなる要素しかないじゃないか!!」と大興奮。

 そこからアメリカ本国で興行成績を追っていましたが、初週2000万ドルで3位デビューで、最終5200万ドルと大コケ。このときは『ミッション・インポッシブル』『リロ・アンド・スティッチ』『ファイナル・デスティネーション』と強豪がひしめき合っていたのと、主演がいかにもなアジア系の俳優ということで、興行的には厳しかったのかなと思いました。

 ですが尺もタイトに94分に仕上がっていますし、ベタなアクション映画の元祖で、しかもジャッキーとマッチオが出ている。これで面白くないわけがないと期待して観に行ったのですが… ビックリするぐらい面白くありませんでした。

 ベタなストーリーというか、『ベスト・キッド』は昨今のサクセスストーリーアクション映画の源流なのでベタもクソもないのですが、王道ストーリーが故に必要最低限のクオリティは担保されているものの、全くワクワクしません。

 エンドクレジットを除いた本編尺が90分なので一応集中を切らすことなく最後まで観れたものの、満足感は非常に低い。最近の映画は上映時間が平気で2時間を超えてくるものが多い中、90分という短い尺がいかに素晴らしいかを痛感したのは唯一の収穫です(笑)

 本作がつまらない理由は以下の3点が挙げられます。

  • トレーニングの意味がない
  • 主人公に魅力がない
  • 戦う理由が不明

トレーニングの意味がない

 『ベスト・キッド』は物語のフォーマットがガッチリ決まっています。

  • 不本意な形で新天地に飛ばされるひ弱な主人公
  • 現地のヒロインと恋に落ちるもいじめっ子の襲撃に遭う
  • 不思議な師匠のもとで雑用にしか思えない特殊なトレーニングを積むが、それで強くなる
  • ライバルとの最終決戦で必殺技を出し、一発逆転を果たす

 『ベスト・キッド』と『ロッキー』は世の中で唯一ベタなサクセスストーリーをやることを許されたフランチャイズです。ただ本作『ベスト・キッド:レジェンズ』は一応ベタと言えばベタな展開ではあるのだけれども、ことごとく「盛り上げるためのベタ」を外してきます。

 最初に驚いたのは主人公のリーが身長160cmぐらいの、いかにも「ひ弱なアジア人」という出で立ちで登場するのですが、ケンカはめちゃくちゃ強いんですよね。ジャッキー扮するハン師匠の元でカンフーの修行を積んでいて、大会でも上位に入賞するほどの腕前で、屈強な白人三人を返り討ちにしてしまいます。

 「えっ、『ベスト・キッド』って主人公が弱いところが売りじゃないの?」と不安になりつつ「今回は"強い主人公が挫折を味わう"ワンス・アゲインものにしたのか?」と思ったのですが、そういう展開にはなりませんでした。結局最初から最後までそこそこ強いまま映画は終わりました。

 詳細は後述しますが、主人公リーがジャッキーとラルフ・マッチオから受ける訓練というのがストーリー上全く意味がないんですよね。

 ライバルを倒すためにトレーニングをするのですが、トレーニングというのは

  • 主人公の現在の力はこれだけで
  • ライバルとはこれだけの差があって
  • 通常の努力ではその差は埋まらないから
  • 特殊なトレーニングによりその差を一気に縮める

 がキモなんですよ。

 まず主人公がそこそこ強いからトレーニングの必要性があまり感じられないし、主人公とライバルの差も明確になっていない。トレーニングも至って普通の方法しかやりません。

 『ベスト・キッド』最大の特徴って「特殊なトレーニング」じゃないですか。初代『ベスト・キッド』であれば車のワックスがけ(ワックスオン、ワックスオフ)、リメイク版『ベスト・キッド』であればジャケットの脱ぎ着(ジャケットオン、ジャケットオフ)。自分もこのトレーニングを真似したらワンチャン強くなれるかもと思えるところが良いのに、今回はごくごく普通のカンフーのトレーニングをするだけになっていました。

 ジャッキーが「今のままではライバルに勝てない!」とラルフ・マッチオを呼んでくるのですが、主人公に何の要素が欠けているか説明されないので、何のためにマッチオを呼んだのか分からないんですよ。マッチオを呼んでも別にマッチオ流のトレーニングをするわけでもないし、なんならジャッキーとマッチオで衝突してる。

 マッチオの登場も後半からですし、あまり見せ場もないどころかセリフもかなり少ないので「ははーん、これはマッチオ、スタジオから何かの契約絡みで無理やり出演させられたな」と思っていたら、最後エンドクレジットで製作総指揮にクレジットされていて横転しました。マッチオ、お前そんなのでいいのか。

 

主人公に魅力がない

 主人公が最初からそこそこ強いというのが応援しづらいですよね。なんというか外見も「アメリカ人が想像する典型的なひ弱なアジア人」なんですよ。これがイケメンや極端なブサイクだったらそれはそれで魅力的なのですが、本当に平均的なアジア人過ぎて掴み所がないというか。

 キャラクター造形も「兄を救えなかった」というトラウマがあるのですが、状況が状況だけに「まぁその状況なら誰だって救えないでしょ」というものなので、とにかく応援するポイントが少ない。例えば「外見はひ弱なアジア人だけど、ケンカは滅法強くて、学校でイジメられてる他のアジア人生徒を助ける(困っている人間を放っておけない)」とか、何か観客と接点を持ちたくなるようなポイントがあればよかったんですけどね。

 同じアジア系アクションスターで言えばジャッキーはお人好しなコミカルなお兄ちゃんですし、ジェット・リーはアジアの優等生、ドニー・イェンなら圧倒的なカリスマ性など、一言で表せるキャッチコピー的なものがあるのですが、今回主人公リーを演じたベン・ワンにはそれがないのが残念でした。

 

戦う理由が不明

 主人公が戦う理由が不明というのが一番映画として痛いですよね。

 本作は今までのシリーズのフォーマットを踏襲して最後に格闘技のトーナメントに出るわけですが、トーナメントに出る理由が不明です。一応大会の優勝賞金で自分に優しくしてくれたピザ屋を立て直すという副産物的なものがありましたが、それもほとんど表に打ち出されていないというか、あとになって「あっ、そういえば優勝すると賞金出るんか」と気づいたぐらいです。

 主人公には「兄を救えなかった」というトラウマがあるものの、別にこのトーナメントに出ることでトラウマが解消されるわけでもない。一応ライバルもこのトーナメントに出るのですが、別にライバルもそこまで悪い人間ではなさそうなので、あまり主人公を応援できないんですよねぇ。

 

 色々文句はありながらも、やはり尺が90分と短く、ジャッキーとラルフ・マッチオが出てくるので、それなりに楽しくは観れてしまいました。

 尺が短くなって思ったのは、この『ベスト・キッド』フランチャイズは「アクション映画ではなく、青春ドラマ映画だったんだな」ということです。

 僕が初めて『ベスト・キッド(オリジナル版)』を観ようとレンタルDVDを手に取ったときは「えっ、80年代の映画で、しかもこのストーリーで尺が120分もあるの!?」と驚いたのを覚えています。また後年ジャッキー版が公開されるときに映画館に行ってチケットを買おうとしたら上映時間が140分もあって「おいおい、『ベスト・キッド』でそんな長尺やる必要ねぇだろ」と思ったものです。

 恐らく本作も本当は120分近い尺で撮っていたはずなんですよね。ところが出来上がりを観て良い仕上がりにならなかったのでプロデューサーが「尺を短くして上映回数を増やせ!」と命令したはずなんですよ。そのおかげでところどころ話がつながっていないというか「この間に絶対別のエピソード入っていただろ」という箇所が複数見受けられました。

 このフランチャイズは舞台を変えれば簡単にリブートできるので、数年後にはまた新作が出るのかなと思っています。またその時もきっとブーブー言いながらも観に行くんでしょうね(笑)



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