映画館で『カメラを止めるな!』を観ました。
上映時間
96分
オススメ度
星5点満点中:★★★★★(絶対観に行くべき!!)
ストーリー
※ネタバレになるので書きません
感想
以前映画評論家の町山智浩さんがラジオ番組で本作を推しており、この作品の存在はうっすらと認識していました。それが今になり作品自体の評判から公開館数を拡大。最初はミニシアター2館から始まったものが、今では全国180館に拡大と聞き、「一体どれくらい面白いのだろう?」と思い観に行ってまいりました。
ネットでも評判を観ると皆が口を揃えて「可能な限り前情報は入れずに観ろ。とにかく観ろ! 絶対後悔しないから!!」と言っていたので、僕も可能な限り前情報を入れずに行ったのですが・・・
こりゃ前情報入れちゃダメだわ!!
僕は普段からどの映画でも前情報は極力入れないようにして映画を観るようにしているのですが、この作品ほど前情報を入れずに観た方がいい映画も無いように思えます。ラジオでは町山さんが思いっきりネタバレしてますが、それも聞いちゃダメ。(僕は結構前にラジオを聞いたので内容を忘れていた)
だから、とにかく前情報入れずに今すぐ映画館に行け!!
(映画のネタバレ含むレビューは下部に記載します)
--------------以下、ネタバレあり--------------
皆さん、今回の記事はちゃんと映画を観たあとで読んでいただけていますでしょうか?
まだ映画を観ていないというのであれば、必ず観てからにしてください。
映画ファンでも映画ファンでなくても、今の日本でこの映画を観て後悔する人はほぼいないでしょうから!!
では、ネタバレ有りのレビューを行います。
いやー、この『カメラを止めるな!』、ほんとに映画の醍醐味をギッチリと詰め込んだいい映画でしたね。冒頭の37分ゾンビ映画ワンカットシーンが出てきたときはホントに不安で仕方ありませんでしたけど、後半では不安に思った点をすべてキッチリ説明し尽くしていて「これは全部計算だったのか!!」と驚きました。
映画としても笑いも涙も全て詰め込んで、これ以上映画として詰め込める要素はないんじゃないか? と思えるような仕上がりでしたね。
今回はこの映画のどこが面白かったかについて書きたいのですが、その前に先に1点だけ悪かった点を挙げさせてください。
悪かった点
本作は典型的な3幕モノと呼ばれる構成を取っていて
第1幕:37分ワンカットゾンビ映画
第2幕:なぜそのワンカット映画を撮るに至ったか
第3幕:実際にワンカット映画を撮る
という構成なのですが、この1幕目があまり面白くないというのがこの映画の唯一の弱点かなと。いや、この第1幕がつまらなければつまらないほど第3幕のカタルシスに集約されていくので、そこのバランス感覚が非常に難しいのですが、僕の中ではセーフでしたが、中にはギリアウトという人もいるかもしれません。
同じ邦画のジャンルで言うと過去に内田けんじ監督の『運命じゃない人』、踊る大捜査線で有名な本広克行監督の『サマー・タイムマシン・ブルース』などが「最初が猛烈につまらない映画」として挙げられます(この2作品、僕はとても好きですよ)。あと強いて言うならタランティーノの『パルプ・フィクション』も近いかも。
この映画の悪い点としてはおそらくこれぐらいだと思います。なので次は良かった点に移りたいと思います。
良かった点
良かった点としては、まず「映画的醍醐味をふんだんに盛り込んでいる」という点です。
この映画的醍醐味というのが非常に重要でして、『カメラを止めるな』は第1幕で起きたことを第3幕で時間軸をズラしながら説明していくという、まさに映画でしかできない表現を行っているのです。
確かに時間軸ズラしは小説でも決して珍しい手法ではありませんが、本作の第3幕は「ゾンビ映画を撮っている」場面と「それを放送する側」の場面が頻繁に繰り返されることで抜群の緊張感を生み出しているのです。
これはカットバックと呼ばれている手法で、同じ時間で起きている出来事を交互に映し出すことで緊張感を高める技法です。ハリウッド映画でよくあるのがピンチに陥っているヒロインと、それを助けに向かう主人公を交互に映すというやつですね。
またラストではこの映画が抱えている「親子の断絶」「映画の完成の危機」という2つの障害を、セリフもなく1カットでビシッと見せきっている。普通の映画だったらここで野暮なセリフが入って雰囲気をぶち壊しにしているところです。この1カットの画、一枚だけでドラマを展開するというのもまた映画の醍醐味であります。
これは映画的醍醐味とは少し外れるかも知れませんが、「映画製作の舞台裏」を勉強できるというのも面白い点でありました。ゾンビ映画モノで「血しぶきを演出するときはどうするのか」「高いポジションから撮影するときはどうするのか」「登場人物の首をはねるときはどうするのか」といったことが明かされていて、観ていて「あぁ、こうやって映画って作られるのね」と勉強になりました。かつて岡田斗司夫さんが「面白い映画は必ず勉強になる点を備えている」と語っていたのを思い出しました。
次に良かった点としては「役者の使い方が抜群にうまい」という点です。
本作は一切有名な役者さんは出ておらず、無名の方で構成されています。けれどどれもキャラクターがバッチリとハマっている! 確かに演技力の面では多少の粗さはあります。だけども映画のキャラクターと役者の素のキャラクターがこれ以上にないほどいい具合に噛み合っており、一人残らず他の役者さんとは代替不可能に思えます。
これは監督が役者さんを見て脚本を書き換えたそうですが、それでいてもこのハマりっぷりはない。普段邦画を見ていると日本の役者さんは海外に比べて演技が劣るように見えてしまいますが、本作を見ているとそれは監督の演出力が無いだけなんだと分かってしまいますね。
最後に良かった点としては「圧倒的な脚本の上手さ」です。
もうこれは誰もが認めるところでしょうが、あまりにも脚本が緻密すぎて「どうやってこれを脚本に起こしたんだろう」と不思議でしょうがなかったです。特に冒頭の37分ワンカットのシーンは普通脚本には書かれないような画面奥の出来事も計算されていて、ちゃんと脚本に真摯に向き合ったんだなということが分かります。
恐らくこの映画、相当な枚数絵コンテを書いて事前に打ち合わせをしていますね。そうじゃないととても撮れませんから。低予算であっても「必ず面白いものを作る!」という意気込みが画面から伝わってくるのが本当に嬉しかった。
またこの映画に出てくるキャラクターは結構嫌なヤツが多いのですが、それが最後には全員ちゃんと成長していて、それが映画的なカタルシスに繋がっている点も良かったです。映画を盛り上げるために嫌なヤツを出すことは多いのですが、それが単に「ムカつくだけ」に終わってしまっている映画も少なくありません。その点本作は、ストーリー上嫌なヤツが出てくることに必然性がありますし、それがラストで一気に解消されるとこの上ない爽快感に繋がります。
以上が『カメラを止めるな!』の感想になります。
この映画のレビューを書いていて思ったのは、『カメラを止めるな』は映画的にレベルの高いことは何もしておらず、ただ「どうやったら観客に楽しんでもらえるか」というところを徹底的に突き詰めているだけなんですね。
よく言及される本作の構成についても先に書いたとおり『運命じゃない人』や『サマー・タイムマシン・ブルース』でもやられてますし、脚本の内容もキャラ造形だって特段突飛なことをしているわけでもない。役者の演技も突き抜けてうまいわけじゃない。
ただ本作が他の邦画と一線を画しているのは「映画を構成する要素を手を抜くことなく一つ一つ丁寧に仕上げていく」ということだけです。
「本当にこれ、企画にしろ脚本にしろ、練りに練ったのか?」と感じることの多い日本映画において、制作費わずか300万円で作り上げた映画がこれほどまでに観客に対して真摯であったことはとてもうれしく感じました。