AmazonPrimeで『テロ、ライブ』を観ました。
※今回の作品はAmazonプライム会員であれば無料で視聴可能です。→リンク
上映時間
98分
オススメ度
星5点満点中:★★★★
ストーリー
不祥事を起こし、テレビ局からラジオ局へ左遷された人気アナウンサーのユン・ヨンファは、ラジオ番組の生放送中、正体不明のリスナーからソウル市内の漢江にかかる麻浦大橋を爆破するという脅迫電話を受ける。いたずらだと思い電話を切ると、予告通りに麻浦大橋で爆発事件が発生。相手が本物のテロリストだと確信し、このスクープがテレビ局復帰へのチャンスになるとにらんだヨンファは、犯人との通話の独占生中継を始めるが……。<映画.com>
感想
久々に面白い映画を観ました!!
現在劇場で公開中の阿部寛主演『ショウタイムセブン』の元ネタである本作。
AmazonPrimeVideoで字幕しかなかったので「とりあえず30分だけ観るか」と気軽に視聴。
僕としては加齢で集中力がなくなっていて字幕映画は苦手(になってしまった)なので、3日ぐらいに分けて視聴するつもりがあまりの面白さに結局そのまま最後まで観てしまいました。本作はエンドクレジットを除くと本編尺90分ぐらいのタイトな尺で、最初から最後まで一気に駆け抜けるような、疾走感のすごい映画でした。
人間関係のシーソーゲーム
自分がテレビ界に戻るためにかつての上司に犯人とのやり取りを独占中継させると話を持ちかけるも、これが一筋縄ではいかない。より視聴率を稼ぎたい上司と、キャスターとして復帰したいがために自分の思うように番組を進行させたい主人公。当初は圧倒的優位な立場であった主人公と段々と主導権を握る犯人。そこに韓国政府や対テロセンター主任などが混ざり、シーソーのようにパワーバランスがコロコロと変わっていきます。その丁々発止のやりとりが非常にスリリングです。
ラジオ局の一室からほとんど出ない作劇法
本作、基本的にはラジオ局の狭い一室でお話が展開し、外に出ることはほとんどありません。中継で外の様子が映し出されることはありますが、それもあくまでも「様子が映し出される」のみ。本作を鑑賞した人間であれば誰もが驚く後半からの怒涛の展開。ラジオ局の狭い一室の中だけでしか話が展開しないのに、本作はスペクタクル映画になるんですよ!
密室劇だと場所の変化がないので撮り方も工夫されていて、手持ちカメラで映像もブレまくって内容も相まってまるでドキュメンタリー映画のようです。いや、むしろYouTubeに素人が投稿した事故現場の映像のようで、それが却って独特の緊張感を与えているんです。
この「手持ちカメラによる撮影でまるでドキュメンタリーを観ているかのような」という演出はカメラが小型になった近年、非常によく見る演出ではあるのですが、どれもイマイチ効果を生んでいないというか、結局内容に緊迫感がないのでただカメラをブラしているだけなんですよね。手持ちカメラを非常にうまく活かしているのはせいぜい『ボーン・アルティメイタム』ぐらいです。
本作は突如かかってきた脅迫電話と、これによって自分がテレビのキャスターに復帰できるかもしれないという思惑により情報が錯綜・混乱します。その混乱している様子が手持ちカメラで非常に効果的に撮られていました。
後から考えると脚本的に色々と穴は多いです。このラジオ局のセキュリティはどうなっているんだとか、なんで警察はこのテレビ局に犯人との交渉権を与えたままなんだとか、犯人一人だけでこんな大掛かりなことできないだろ、とか。でもそれを押し切るような展開の速さ、大胆さと、畳み掛けるカットの積み重ねでそこまで気にならずに最後まで映画を観ることができました。
あと、主人公のバックグラウンドを映画の冒頭にダラダラと語らないのもよかったですね。これが下手な映画だったら冒頭15分ぐらいかけて「主人公は国民的ニュースキャスターで、それがとあるスキャンダルで失墜して、妻とも離婚して…」と延々やっていたでしょう。本作は映画が始まるとすぐに脅迫電話を受けて、話の中で徐々にバックグラウンドが明らかになってくる、でも過度に説明しない、というか説明がちょっと足りないぐらいに留めていたのでテンポが落ちることがなかったです。
喜怒哀楽の怒涛の顔芸
本作一番の魅力はなんといっても主演のハ・ジョンウの顔芸でしょう。
密室劇ということもあって映画の80%ぐらいがハ・ジョンウの顔のクローズアップで埋め尽くされているんですが、彼の演技力だけでこの映画を成立させてしまったようなものです。
最初はテレビ局から左遷され、ラジオでうだつの上がらない日々を送り、「くたびれたオッサン」然としていたのが、キャスターとして復帰できると気づいてからの目つきの変わりよう。10分前にはしがないオジサンだったのが、髪をセットした途端イケオジに早変わりです。その後自分の想定以上に事が大きくなりだし、現場がコントロールできないようになると「なんで俺がこんな目に遭わなくてはいけないんだ」と今度は涙目になります。
この感情の変化の演技がうまいというか、物語の進行とシンクロしていて、自然と感情移入してしまうんですよね。
『テロ、ライブ』は、90分間息つく暇もないほどのスリリングな展開と、主演ハ・ジョンウの圧倒的な演技力が魅力の作品でした。密室劇ながらも、映像の演出やカメラワークによって臨場感と緊張感が極限まで高められています。ストーリーには多少の粗さもあるものの、その勢いと演出の力強さで最後まで一気に観せてしまう圧巻の映画でした。