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【ネタバレあり】アメリカ資本のNetflixだからこそできた世界に通用する日本発のケイパードラマ

 現在Netflixで配信され、話題となっているドラマ『地面師たち』を鑑賞しました。

 これが1話目から面白く、ノンストップで全7話一気に観てしまいました!

 地面師という存在はこのドラマで初めて知ったのですが、やはり映画やドラマを通じて「世の中にはこういう詐欺があるのか」と新たな世界が知れるのはいいですよね。自分が普段知らない世界をリアルに体験できるのがフィクションの良いところだと思います。

日本で制作された世界に通用するケイパー(犯罪)ドラマ

 さてこの "地面師" と呼ばれる詐欺師たちは何をやっているのか。簡単に言えば土地の権利の売買を専門とした詐欺師のことを指します。土地の所有者になりすまして本当は売る気のない土地を勝手に売り、報酬を得る。

 本作は2017年に大手ハウスメーカーである積水ハウスが地面師たちに55億円もの大金をだまし取られた実際の事件をモチーフにしています。モチーフと言いつつも、ドラマは実際の事件にかなり忠実なストーリー構成となっており、こんなドラマのような出来事が実際に起きていたのかと驚かされます。

 『地面師たち』はそのタイトルの名の通り、詐欺行為を行う地面師たちを主人公に据えています。巨額の詐欺事件を実行するに当たり、計画を練り、仲間を集め、様々なトラブルが発生しながらも実際に遂行していく。これがちゃんとハラハラ・ドキドキするのです。

 日本のサスペンスだと「ハラハラ・ドキドキ」というのはあまりありませんが、それをここまでの完成度で成立させたのは非常に素晴らしい。特に一話目の、土地の権利者になりすました老人の役者の演技は素晴らしく、登場シーンはそこまで多くないながらでもネットで絶賛されています。軽度の認知症が入った老人が地権者になりすますのですが、認知症故にまともに受け答えができないんですよね。本当にここの演技が素晴らしく、フィクションでありながらも「おじいちゃん、余計なことは言わずちゃんとなりすましてくれ~」と手に汗握ってしまいました。

 巷では「全く新しいドラマ」と評されることもありますが、実際は何度もやり尽くされたストーリー構成です。この構成は古いところだと『スティング』、近年だと『オーシャンズ11』などがあります。僕自身の感覚として近いと思ったのは『プリズン・ブレイク』です。"地面師" という聞き慣れない役職が出てくるものの、やっていることは土地の所有者になりすまして金をだまし取るだけ。なにか新しいストーリー展開を見せられているような気にはなりますが、実際には非常にベーシックなストーリーなのです。

 鉄板のフォーマットを使いつつ、それを「地面師」というなじみのない題材を織り込むことで全く新しいものを観ている気分になります。

 

海外資本だからこそできた作劇法

 本作が良かったのは「とにかくダサくない」ところです。

 美術も、セリフ回しも、物語を伝える映像表現も本当に良かった。美術で言えばNetflix資本だけあって、画面に貧乏臭さが全くありませんでした。おそらく東京の町並みを映すのにCGも多用されているかと思われますが違和感はほぼありません。電線が張り巡らされた東京では高架撮影がなかなか難しいですが、ドローンを効果的に使っていて「金がかかってんなぁ」と感心しました。日本のドラマにありがちな「あぁ、金がなかったんだろうな」というノイズが少ないので、物語に集中できるのです。

 なんといっても良かったのがセリフ回しと物語を伝える映像表現ですね。説明ゼリフが極限にまで削られています。もちろん地面師詐欺という土地の売買をテーマにしたドラマなので、そのあたりの説明ゼリフは多く入っているのですが、登場人物の心情の動きは表情や効果音などで、極力セリフは使わず動きだけで表現されています。日本のドラマや映画はなんでもセリフで説明したがるし、それが観客を興ざめにさせるのです。だがそれが本作にはない。

 日本のドラマや映画に説明ゼリフが多い理由としては日本の脚本の書き方や、日本の文化に原因があります。

 日本の脚本は基本的に「画面に写っているものしか書いてはいけない」としています。要するに登場人物の心情などは書いてはいけないのです。映像にすればわかるような主人公の心情を日本の脚本では書いていけないのです。心情をかけないから仕方なく何でもセリフにして説明してしまいます。これは日本は基本的に単一民族であり、みんな日本語がわかってしまうから安易にセリフに頼ってしまうんですよね。

 でも海外、特にアメリカは違います。アメリカの脚本は、脚本に心情をガンガン書きます。アメリカは英語が理解できない視聴者・観客も多くいるので、セリフに頼らず、動きだけでどうやったらストーリーを伝えられるか腐心しているのです。

 本作は資本がNetflixのため、恐らくアメリカにある本社側に「もっと心情を書けや」「セリフばっかりだと日本以外に訴求できないだろ」と怒られたんだろうと思います。だからダサい説明セリフがない。それでいて地上波ではないのでセリフも本当に汚くて活きが良いんですよね。詐欺ミッションの実行もトラブルに次ぐトラブルで「いやこれもう無理やん」という展開になってからあっと驚く下品な手法で乗り越えてしまうんです。とても地上波ではできない展開ですが、それゆえに最高なのです。

 

追い詰められる山本耕史

 僕が本作で一番好きなキャラクターは山本耕史扮する青柳部長です。騙される側のハウスメーカーの部長なのですが、若くして次期社長候補と目されているイケメンやり手マネージャー。新卒時代は現社長の鉄砲玉としてダーティーな仕事も数多くこなし、自分にも厳しいため部下への対応もパワハラスレスレとなっています。いやぁ~こういう目がギンギンになった若手のイケメンマネージャー、いるんですよねぇ。そんなイケイケの山本耕史が騙される側としてじっくり描写されていくんです。

 これがもう騙されるべくして騙されるというか。別に青柳部長はアホなキャラクターではなく、むしろキレ者なわけですが、騙されのピースが徐々にハマっていっちゃうんですよね。ずっと「青柳、それは罠だ!!」とハラハラしてしまうんですよ。社内でも青柳は追い詰められていて、そこに一筋の蜘蛛の糸として垂れ下がってきたのが今回の地面師詐欺の案件。窮地に追い詰められた青柳が112億もの巨額の社内稟議を無理やり通すんですよね。その手法も「分かるわ~ そうやって無理やり通すんだよ」と悪い意味で納得してしまうんですよね。

 騙される側がここまで丹念に描かれるのは意外とあるようでなかったなと思います。それでいて騙される側の青柳(山本耕史)のドラマだけでも十分に面白いんですよ。

★★★★★

 僕が本作で一番良いなと思ったのは、騙す側の地面師たちを肯定的に描いていたことです。

 映画やドラマは倫理的な面から最後はどうやってもバツを受ける展開になるので、それが地面師たちではなかったのが良かったなと思います。

 日本の作品とは思えないほどクオリティの高い作品ですので、ケイパーモノが好きな方はぜひご鑑賞ください。



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