映画館で『チェーンソーマン:レゼ篇』を観ました。
上映時間
105分
オススメ度
星5点満点中:★★★★
ストーリー
2022年にテレビアニメ版が放送された藤本タツキの大ヒットコミック「チェンソーマン」の人気エピソード「レゼ篇」をアニメーション映画化。テレビアニメの最終話からつながる物語で、主人公デンジが偶然出会った謎の少女レゼに翻弄されながら、予測不能な運命へと突き進んでいく姿を、疾走感あふれるバトルアクションとともに描き出す。
「チェンソーの悪魔」との契約により「チェンソーマン」に変身し、公安対魔特異4課所属のデビルハンターとして悪魔たちと戦う少年デンジ。公安の上司である憧れの女性マキマとのデートに浮かれるなか、急な雨に見舞われ雨宿りをしていると、レゼという少女に出会う。近所のカフェで働いているというレゼはデンジに優しくほほ笑みかけ、2人は急接近する。この出会いをきっかけに、デンジの日常は大きく変わりはじめる。<映画.com>
感想
2週間以上前に観ていたのですが、なかなか感想が書けず、今になって記事をアップロードすることになりました。
元々僕は『チェーンソーマン』に関してあまり知識がなく、アニメの第一話だけ鑑賞。その時はアニメの割と静謐な雰囲気に睡魔が勝ち、継続しての視聴は断念。その後本作『レゼ篇』が公開されると邦画興行収入で余裕の1位でランクインするのと同時に、全米でも初週1800万ドルを稼ぎ出し同じく1位に。「全米でもこれだけの人気を誇るなら映画を観に行ってみるか」と映画館に足を運ぶことにしました。
アニメの第一話を観ているのと、ストーリー自体はそれまでのシリーズと独立して完結しているため、話が全くわからず混乱するということもなく純粋に楽しめました。まぁTwitterでもしょっちゅう『チェーンソーマン』の話題が流れてくるので話の大枠は嫌でも掴めてしまいます。僕の『チェーンソーマン』に関する知識としては、ロクに学校に通えず一般的なモラルが備わっていない主人公デンジが、己の性欲に身を任せながら悪魔を倒し続けるというお話、ぐらいの認識でした。映画を観るならこれぐらいの知識で十分でしたね。
この映画、主人公デンジが謎の少女レゼに翻弄されながらも心を通い合わせ、やがては激しく戦い合う悲劇を描いたものですが、非常にシンプルかつストレートな物語でよかったです。前半の雰囲気は90年代の日本の牧歌的な恋愛映画の様相を呈しており、一番近いのは岩井俊二の『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』だなと思いました。牧歌的ではあるものの、常にどこかでダーレン・アロノフスキーの『レクイエム・フォー・ドリーム』のような恐ろしさが垣間見れたりと、常に危うさをはらんでいます。
そうして前半50分はデンジとレゼの恋愛パートが延々と続き「これ、ほんとうにバトルやるのか?」と不安になってくるのですが、後半50分は怒涛のアクションが展開されます。まさに「怒涛」と言うべきアクションで、前半の牧歌的な雰囲気は一体何だったんだと思えるほどの、観客の理解を超越する多重層的なアクションを繰り広げるのです。
一昔前にジョシュ・トランク監督の『クロニクル』という映画があったのですが、あの感覚に近いですね。元々低予算英賀だったということもあって前半は全然アクションをやらないのですが、後半からは『AKIRA』のような超絶怒涛のアクションが展開されるのですが、本作『レゼ篇』も後半にアクションをやるために前半は制作費を抑えたんですかね。
以前観た『鬼滅の刃』に続き、日本のアニメ映画のアクションは世界一だと思います。本当はもっと細かくアクションについてレビューしたいのですが、アクションがあまりにも複雑に設計されているので文章でとても説明できないのが悔しいですね。それぐらい複雑かつ多重的にアクションが設計されているのです。下手なアクション映画ですと、元のアクションが大したことをやっていないのにやたらと手ブレさせたりカットを異様に細かく割ってカサ増しすることがあるのですが、『鬼滅の刃』や『チェーンソーマン』ですと、しっかりとアクションを設計したうえで細かくカットを割ったりしているので、その情報量の多さが気持ちいいんですよ。
他にも映画の悪いところ、特に邦画でやりがちなのですが「引き算をする」というものがあります。これは余計な演出を省いて製作者が本当に見せたいものに集中して見てもらうために色んな要素を削ぎ落としたりするのですが、今の時代にそんなことをやっても「引き算」をする前に情報量が大してあるわけではないので、そこから余計なものを引かれても一瞬で全体像が把握できてしまって退屈でしかないんですよ。だからこれからの時代は観客が理解する前に次から次へと情報を繰り出す「掛け算」の演出が必要なのです。映画館で観ていて理解できなかったら何回も劇場に足を運ぶだけですし、後日配信で繰り返し視聴すればよいのです。
さて、ここまで割と本作『レゼ篇』を褒めては来ましたが、ひとつ難点が。それはデンジとレゼが交流を深める理由があまりない点です。というよりかは多少無理があります。レゼは元々デンジの心臓(命)を狙って近づいてくるわけですが、心臓を狙っているのであれば喫茶店でイチャイチャしたり、二人で学校のプールに忍び込んでスッポンポンでキャッキャやってる場合ではないのです。さっさとデンジの心臓を狙わんかい。
でも欠点といえばそれぐらいですし、多少無理があるとしてもそれはそれでデンジとレゼの交流は観ていて楽しかったですし、ラストの割と悲劇的な展開は胸を打ちました。話に整合性を持たせるために「ソ連のスパイであるレゼは任務中、図らずもデンジに命を救われる。そこから二人は交流を持つようになり、やがては離れがたい関係になるが、そんな矢先レゼが探し求めていた"心臓"をデンジが持っていることを知り…」という展開にしたら、それはそれで今まで腐る程作られてきたありきたりな映画にしかならないですからねぇ。
