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サラリーマンにこそ観てほしい、挫折の映画『バクマン。』

 AmazonPrimeで『バクマン。』を観ました。

※今回の作品はAmazonPrime会員であれば無料で視聴可能です。

 

ストーリー

 優れた画力を持ちながら将来の展望もなく毎日を過ごしていた高校生の真城最高(佐藤健)は、漫画原作家を志す高木秋人(神木隆之介)から一緒に漫画家になろうと誘われる。
 当初は拒否していたものの声優志望のクラスメート亜豆美保への恋心をきっかけに、最高はプロの漫画家になることを決意。コンビを組んだ最高と秋人は週刊少年ジャンプ連載を目標に日々奮闘するが……。<Yahoo!映画>

 

上映時間

 120分

 

オススメ度

 星5点満点中:★★★★

 

感想

 実はこのバクマン、鑑賞するのが今回3回目なのですが、なぜか3回目にしてラストで泣いてしまいました。

 元々このバクマンに対してはそこまで思い入れは無く、原作漫画は最初の5巻ぐらいを軽く流し読みをする程度。その時から「面白いな~」とは思っていたのですが、そこから特に続きを読むこともなく実写映画が公開され、DVDが発売された頃にレンタルで初めて鑑賞しました。
 初めて観た時は確かに面白いと思ったのですが、そこまで惹きつけられることもありませんでした。しかしそこからなんとなく1年おきぐらいに1回は観ていて、今回3度目の鑑賞をしたところなぜか涙が。

 自分でもなぜ3回目にして泣いてしまったのか不思議に思い、この映画について色々と考えてみると、それはこの映画が「高校生漫画家を主人公にしておきながらも、そこで描かれるお話は我々サラリーマンの悲哀を表現しているからだ」ということが分かったのです。

 

①9の真実と1の嘘

 まず本作の良い点として挙げられるのは、「1の嘘を付くために、9の真実をちゃんと描いている」という点です。

 例えばこの映画における悪役であり、主人公たちのライバル・新妻エイジ(演:染谷将太)はどう考えても現実世界にいないような人間です。
 いつも猫背で全身は黒い服を着ていて、漫画を書く時は部屋を真っ暗にして自分が作業をするところだけ明るくする。喋り方も明らかにコミュ障で、人の気持ちを考えず、自分の思ったことをそのまま喋る。どう考えても現実にそんな人間は存在しません。
 ただこの映画を観ている人で、この新妻エイジに対してストレートに「こんな人間いねーよ」という拒絶反応を示した人ってあまりいないと思うんですよ。普通に映画を観ている分にはむしろこの悪役に魅力を感じていたはずです。
 ただそんな彼に対して観客がなぜ違和感を抱かないかと言うと、彼自身はフィクションの存在でも、それを取り巻く環境はノンフィクションだからなのです。
 例えば新妻エイジの描く漫画の「CROW」はこの映画ではほんの少ししか出てきませんが、なんとなく「このキャラクターならこんな漫画描きそうだな・・・」と思えてしまいますし、また彼のその不思議なキャラクターから「この子、こんな性格ならジャンプ編集部を色々と振り回しそうだな」と思っているとほんとに劇中で編集部を振り回しますし、その時の編集部の対応も「あぁ、スキル持ってる人がワガママ言い出すと周りはこんな感じで動くことになるんだよな」と思わず納得してしまうのです。

 キャラクターで言うと新妻エイジだけでなく主人公たちの味方となる新人漫画家陣のキャラ造形もよく練られています。
 例えば何十年も有名漫画家の背景画アシスタントをしていて、自身の作品がやっと手塚賞に入選した中井さんも、彼の佇まいを見るだけで一発でその苦労が伝わってきます。小さい頃から漫画が好きで、将来は漫画家として成功することを夢見ていたが自分ではきっと面白い物語を紡ぎ出す才能がなかったのでしょう。何年も背景アシスタントの地位に甘んじることになります。
 今まで漫画をほとんど描いたことがないのに、初めて本格的に描いた漫画で入賞をする平丸も、小さい頃からコミュ障で、人とあまり関わりをもたない人生を送ってきた。だけれども彼の頭の中では少しダークな"面白いこと"が浮かんでいた。
 上で今僕が書いたことはあくまでも僕の想像ですけども、キャラを一目見ただけでも色んな想像を掻き立てられます。想像を掻き立てられるがゆえに映画の世界にどんどんのめり込んでしまう。
 これが下手な映画だと、出てくる登場人物の背景をフラッシュバックで延々と説明しだすのですけども、この映画にはそれがない。恐らく監督の頭の中でもそれぞれのキャラクターに対して色んなディティールが構築されているが故に敢えて説明していない。
 日本映画の悪い習慣として、対して考えてない時ほど長々と説明するのだけども、それが却って底の浅さを露呈してしまっていて、それでいて映画のテンポを猛烈に悪くしているのですが、『バクマン。』に関して言えばそういったことが無かったのがとても良かったです。

 

②退屈をカバーするフレッシュな表現方法

 『バクマン。』は原作でも非常に説明ゼリフが多い。
 "説明"をどう調理するかは監督の腕の見せ所なのですが、この映画が抱える説明ポイントはかなり難題です。
 この映画が抱えるポイントは以下の通り

  • 漫画のアイデアを思いついたとき、それをどう表現するか
  • 主人公の二人が漫画を書き、段々とランキングが上っていく様子をどう表現するか

 まず漫画のアイデアを思いついた時に、その内容をバカ正直に口に出すという手法もありますが、それではあまりにも退屈になってしまいます。
 そこでこの映画ではどうしたかというと、「思いついたアイデアの様子をメガネに表示させる」という手法を取りました。これを文章にするとなんのことだかわかりませんが、この表現手法というのが、自分の心の中で思っていることを表現するのには今まで見たこと無い表現で、とても新鮮なのです。
 そして次の「主人公の二人が漫画を書き、段々とランキングが上っていく様子」については、漫画を描く様子をただ淡々と描いているととても退屈になってしまいます。そこをこの映画では「バトルアクション演出」によって見事にクリアしているのです!
 「漫画を描く様子をバトルアクションにするってどういうこと?」と思うことでしょうが、このあたりについてはぜひ本編を見て確かめてみてください。(このページの最初の方に貼ってある予告編でもチラッと観れます)

 いずれにせよ、この映画で配慮が行き届いているのが「普通に描くと観客が退屈してしまう説明シーンをいかにエキサイティングにするか」というところです。本来なら説明のシーンって一番退屈してしまうところをこの映画は一種の見せ場まで昇華しているのがすごいところです。

 

③この映画が描いているのは、サクセスストーリーではなく徹底した挫折

 さて、この映画でなぜ僕が泣いてしまったかというと、それはこの映画が「サクセスストーリーではなく、徹底して挫折を描いているから」なんですね。
 普通にこの映画を観ている分には「『バクマン。』ってサクセスストーリーでしょ」と思うところですが、この映画を細かく観ていると、決してサクセスの部分って多く描かれていないんですよ。

 例えば序盤で佐藤健演じる最高がヒロインの亜豆に、漫画家になるんで結婚してくださいと勢い余って言ってしまって、それが予想外にも受け入れられたところで最高も観客も「うぉーーーー!!!!」と興奮が高まるのですが、興奮が高まったさなかでバスッとそのシーンは終わり、次のシーンでは最高の親戚の漫画家のおじさんが過労から体調を崩すシーンになり、漫画家は夢のない仕事だという描写が出てくるのです。

 物語の中盤で主人公たちが週間連載に追われひたすら漫画を描くのですが、そこで描かれるのは果てしない作業量。描いても描いても終わらない。描いてもまた次の話を考えないといけない。そもそも描くという行為自体が重労働なのにアイデアも出さないといけない。アイデアなどそう簡単に出てくるものでもなく、出ないなら出ないで容赦なく順位は下がっていく。

 終盤は最高がある漫画キャラクターを生み出すのですが、それをライバルである新妻エイジがちょっとしたキッカケから描くことになります。その絵が、キャラの創造主である最高よりも新妻エイジのほうがよっぽどうまい。この絵は誰よりも自分がうまく描けるはずなのに、それが横か出てきたライバルのほうがうまく描けてしまう。

 

 さてこの映画、ラストはある目的に向かって主人公二人が突き進むのですが、映画的には「その目的が果たせたかどうか」の部分がクライマックスになってないんですよ。描かれていたとしてもスローでなにげなく、普通に終わってしまっている。
 この映画が本当のクライマックスとしているのはその直前の「編集長から巻頭カラーで漫画を描くように言われてそれを了承するも、過労で倒れてしまう。でも頑張ってなんとか締切に間に合わせた」というものなのですよ。

 これって別に対外的に言ったら別に何もすごいことをしているわけではなく、ある意味マッチポンプというか、ちゃんと体調管理をしておけばよかった話です。別に締切に間に合ったところで単行本が爆発的に売れたとか、1位を取れたとかいうわけでなく、あくまで「普通にやっていれば間に合ったところを勝手にコケて、それをリカバリーした」というだけの話なんですよ。

 ただ僕はここにものすごくグッと来ました。僕らサラリーマンってこういう経験っていっぱいあると思うんですよ。上から明らかに自分とはレベルがミスマッチな仕事を振られて、でもそれって傍から見たら大した内容のものじゃない。すごい頑張ってその仕事をこなそうとするのだけども体調不良が重なって、間に合いそうもない。だけれ風邪薬を大量に服用して、過剰な残業で無理やり仕事を仕上げたら上から褒められた。でもその仕事って別に高度なことをやっているわけでもないし、内輪向けのものだから、その仕事が元で何か商品がヒットしたわけでもない。ただ上から褒められただけ。褒められていい気分だから帰りにコンビニでちょっと高めのおつまみと酒を買って、家で一人「あぁ~俺いい仕事したな」なんて悦に浸る。そんなことって社会人なら誰でもあるじゃないですか。

 漫画を描く行為だって、我々サラリーマンと同じで、一つ描いてもまたすぐ次の原稿を書かないといけない。仕事を一つ終わらせてもまた次の仕事が降ってくるだけ。この映画が描いているのは漫画家ですが、仕事をするという意味では職業が変わっても、やっていることはどれも同じなんです。そういう構造を観客は無意識のうちに読み取り、思わず共感してしまうのです。

 

 予告編や、本編自体、どれも非常にポップな仕上がりとなっているため、僕が上で描いているような陰湿なイメージを持つことはなく、鑑賞後も非常に爽やかな後味を残す作品です。
 ただその裏では現代のサラリーマンに向けた熱いメッセージの潜む非常に良い映画なので、ぜひおすすめです。

 

※今回紹介した作品はAmazonPrime会員の無料体験でも視聴可能です。

 

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