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観た人をポジティブな気持ちにさせる "いい映画"『百円の恋』

 AmazonPrimeで『百円の恋』を観ました。

※今回の作品はAmazonPrime会員であれば無料で視聴可能です。→AmazonPrimeビデオ

 

上映時間

 113分

 

オススメ度

 星5点満点中:★★★★

 

ストーリー

 32歳の一子(安藤サクラ)は実家でだらしない毎日を過ごしていたが、離婚して実家に戻ってきた妹の二三子といざこざを起こし、一人暮らしをすることに。100円ショップで深夜労働にありつき、相変わらずな日々を送っていたものの、ボクサーの狩野(新井浩文)と恋に落ちる。狩野との幸せな日々はすぐに終わってしまうが、ある日、たまたま始めたボクシングが一子の人生を変える。 <Yahoo!映画>

 

感想

 "いい映画"、とは何か。

 

 

 僕は世の中には"面白い映画"と"いい映画"があると思っています。

 面白い映画というのは観ている上映時間中「面白い」と感じるが、次の日になると内容を忘れてしまう映画のこと。
 いい映画は、映画自体を観終わってもいつまでも頭の中に残り、それでいて観客の人生にいい影響を与える映画のことだと思っています。

 そういった意味で先週観た『クリード 炎の宿敵』と今回観た『百円の恋』は同じくボクシングを題材にしながらも非常に対照的な映画で、上記の定義に照らし合わせるならば『クリード』は面白い映画、『百円の恋』はいい映画になります。

 

 さてこの『百円の恋』、「AmazonPrimeで観れる映画ランキング」があると必ず上位に挙げられる作品で、どのサイトのユーザーレビューを見ても非常に評価が高い。
 しかしながら予告編を観る限りは僕の嫌いな日本映画の悪いところが詰まっている気がして、どうしても食指が動きませんでした。
 ところが先日、何気なくAmazonPrimeで映画作品を探しているとおすすめ作品として上がってきたため、夕食を食べながら片手間に観賞。するとやはり前半30分は日本映画の悪いところが詰まった映像が延々と流れてきて「あぁ、やっぱりこの作品ダメかもなぁ」と思っていたところ、中盤に物語が動き始めてからは主演の安藤サクラの演技にグイグイと引き込まれ、結局そのまま最後まで観てしまいました。

 

 まず最初に言っておくと、この作品は文句なしの傑作であり、特に主演の安藤サクラは現在の日本の役者さんの中で間違いなく一番だと言える演技をしています。
 物語の序盤では髪もボサボサ、ノーメイクのだらしない体つきで、一切カワイイと思える要素がない中で、ボクシングと出会って段々と変わっていき、最後には少しカワイイというか美人にも見えてきます。
 この作品がなぜ傑作かと言うと、それはひとえに安藤サクラの演技の巧さ、というよりかは演技への真摯な向き合い方にあるでしょう。もしこの作品の主演が安藤サクラでなかったらきっと平凡な作品になっていただろうと思えるほど、本作での彼女の演技はとても素晴らしいものでした。

 

 さて、そんな傑作である『百円の恋』ですが、褒める内容は後半で書くとして、先にダメな点を挙げておきます。

 

 僕が挙げるダメな点は、ただ1点。監督が致命的に才能がない。

 才能がない上に、非常に勉強不足だというのが本作を観ていてありありと伝わってきました。

 

 まずこの作品は前半1時間に日本映画の悪いところがギッチリと詰まっています。
 例えば引きの画で1カット長回し。低予算映画だから撮影日数も逼迫していて、頻繁にカメラ位置も変えれずカットを割れないのも分かりますが、だからといって引きでカメラをドーンと置いて、そこで役者さんに延々と演技をさせられると、観客の僕としては飽きます。
 また撮った素材は全部使いたいのか、編集で無駄なシーンを切れていない。物語の序盤で、妹の息子が2階にいる一子を呼びに行くというシーンがあるのですが、この監督はそれを移動カメラで延々と追うのです。息子の背後からずっとカメラで追って、階段を登り、ドアを開け、一子を呼ぶ。が、このシーン、本当に一子を呼ぶだけで何も起きない。え? だったらなんでわざわざワンカット長回しで追った? 普通長回しを使うのであれば、「一階にいる妹が息子に一子を呼ぶように命令する→息子、階段を登り部屋まで行き一子を呼ぶ→一子、呼ばれて息子と一緒に一階まで降りる→さっきまで普通だった一階がめちゃくちゃになってる」みたいな事をやると思うんですよね。でもこの映画はそれをやってない。
 他にも切ろうと思えば切れるシーンはいっぱいあって、特に前半1時間の一子がボクシングに出会う前までの「いかに一子は不遇な日常を送っているか」を見せるシーンは、正直30分あれば十分です。前半60分は30分まで短く出来ます。なんでこれ、物語の前半の一子の不遇な日常パートがこんなにも長くなってしまったかと言うと、脚本で読む限りは一子はセリフがほとんどないので、どうしてもエピソードの積み重ねで一子の不遇さを現そうとしてしまうんですね。ですが主演の安藤サクラが抜群の演技力で、いかに一子が今までの人生を怠惰に生きてきたか一発で分かるようにしてくれているので、正直そういったエピソードをやられるとクドくなるんですよ。ただ監督はそこをバカ正直に脚本そのままで映像化してしまった。低予算ならば上映時間をギリギリまで短くすることで他のシーンにお金をかければいいのに、なぜかインディーズの邦画は逆にダラダラと長くしたがるんですよね。短くなれば1日の上映回数も増やせるというのに。
 そして最後に、監督の映画に対する圧倒的な勉強不足さが露呈してしまっているのも問題です。そもそもこの映画の中に監督の"演出"を感じるシーンが全くありませんでした。先週観た『クリード 炎の宿敵』なんかはオープニングで父親ドラゴが寝ている息子ヴィクターをグーパンチで起こすシーンなんかがあったりするわけですが、このシーンだけ見ても、いかにドラゴがヴィクターをスパルタに教育してきたのかが一発で分かる非常に素晴らしいシーンとなっています。ところが本作『百円の恋』には観客をオッと唸らせるような監督のアイデアがないのです。
 トレーニングシーンにしても、本作の数少ない見せ場であるにもかかわらず、アップテンポの音楽がかかり観客が一番ノッてきたところで唐突に音楽を止め、次のシーンに移ります。えっ、なんでそんなことした? 普通トレーニングモンタージュシーンの最後はストップモーションかフェードで終わるって相場が決まってるでしょ。
 また終盤で一通りトレーニングを終えた一子がボクシングの試合に望み、控室から会場まで歩いていくのをワンカットで撮っているシーンがあるのですが、これも普通に一子を正面から撮っている。いや、ここは普通控室でスパーリングなどをやっている一子をずっと後ろから撮って、そのまま控室を出る。で、試合会場に着いたところでクーッとカメラが一子の正面に回り込んでその表情をアップで捉えると・・・ 今までの一子とは別人のような精悍な顔立ちになっている。っていう演出をなぜしないのか! こんな演出、スポーツ映画なら何回でも使いまわしされているようなベタ中のベタ、それでいて盛り上げるためのスタンダードな演出でしょうが!! なぜそれをやれないんだ!!!!

 

 

 さて、ひとしきり本作の悪い点を語ったところで、本作の魅力について話したいと思います。

 本作最大の魅力といえば各所でも言及されているように、主演の安藤サクラの演技の巧さおよび演技への真摯さでしょう。

 安藤サクラ演じる主人公、一子の初登場シーンはなかなかインパクトがあり、上にも書きましたが髪はボサボサ、体はだらしなく、顔はノーメイクで可愛げが一切ない。常にボソボソ喋りで、家族に対しては強気に出るけども、他の人に対してはおどおどしてる人生の詰んだアラサー女。最初のワンカットだけで彼女が一体どんな怠惰な人生を送ってきたかが一発で分かります。それが一人の男と出会いボクシングを始め、だんだんと変わっていきます。
 このボクシング一つとってみても、初めはまったく運動神経がなく、「いや、こんなんでボクシングなんかできるのかよ? てかこんなんじゃすぐ辞めるんじゃないのか?」と思ってしまうほど、運動ができない人の動きなんですね。
 それが物語後半になると俊敏な動きを見せ、ちゃんとボクシングをやっている人の動きになるんです。体もシャキっと引き締まり、目に力が宿っていきます。

 前半の一子の不幸な境遇や運動神経のなさのフリがしっかりと効いている分後半のカタルシスや凄まじいものがあります。

 主演の安藤サクラは元々ボクシングの経験者だったそうですが、ちゃんとこの作品に合わせてボクシングの練習をしたのが分かりますし、何よりもボクシングの経験がありながらそれでいて敢えて下手くそな動きをするってすごく難しいと思うんですよ。一度体にボクシングの運動神経が通っちゃうとなかなか昔には戻れない。それがボクシングジムに入門した当初の一子の動きは今まで運動を一切してこなかった女性の動きそのもので、特に縄跳びをしているシーンでかかとから着地して、かかとでジャンプしようとしてしまうところなど思わず「わかる!」となってしまいました。
 また最初はたるみきった体で登場する安藤サクラですが、後半では完全にボクサー体型へと変貌します。本作のような低予算映画ではおそらく撮影日数も20~30日ぐらいしかなかったでしょうに、それでも体を絞り込んでくるとは驚愕です。今の日本映画で、かつ、大作のように90日以上撮影日数があってもここまでちゃんと体を作ってこれる役者さんが安藤サクラの他にいるでしょうか?
 役作りの肉体面もそうですが、演技の精神面についてもキッチリ作りこんであって、後半一子はボクサーとなって生き生きとするわけですけども、それでも喋り方にはどこかかつてのニート時代のおどおどした感じがあって、この蝶が脱皮するか脱皮しないかのギリギリの感じが素晴らしいんですよね。ここでもし彼女がボクシングと出会って、前半とは打って変わって饒舌に喋るようになってしまったら「なんだ、やっぱり映画ならではのご都合主義なサクセスストーリーかよ」と白けたことでしょう。これ、安藤サクラは絶対台本に1行毎に演技プランをギッチリと書き込んで撮影に臨んでますよ。そうでなければ全体を通してあんな整合性の取れた演技できないですから。

 正直に言って僕は安藤サクラの演技について本作を観るまでは非常に懐疑的で、数年前に何かの映画で彼女の演技を見た時は「う~ん、インディーズ映画でブサイクな役を真正面からやれてるってだけで、そこまで演技がうまい感じはしないけどなぁ」なんて生意気なこと思っていたのですが、そんな印象は完全に吹き飛びました。
 本作で安藤サクラは日本アカデミー賞の主演女優賞を受賞し、今やNHK朝ドラ(現在『まんぷく』に主演)の顔ですからね。

 

 さてこの映画、あらすじだけみても分かるように、これといって大きな起伏はありません。一人のアラサーニート女性がボクシングと出会って、プロとしてデビュー戦に挑むだけです。ロッキーのようにヘビー級タイトルマッチをやるわけでもなく、デビュー戦に勝っても負けても一子の明日にはほとんどなんの影響も与えません。映画らしいドラマティックな出来事が起こらないからこそ、我々観客の住む世界と地続きになっていて共感できる。
 いや、単純にドラマティックなことが起きない映画なんて腐るほどあるんですよ。特にインディーズの日本映画。でもそういう映画って軒並み失敗していて、見ていて何も面白くない。そういう映画ってドラマティックなことが起きない上に、ドラマも作れてない。
 けれども本作は「ドラマティックなことは起きないけれども、確かにドラマになっている」んですよ。今まで30年間親のスネをかじって無気力に生きてきた女性が、ボクシングと出会うことで初めて自分の力で生きようとしている。傍から見たら全然前に進んでないけれども、今まで前に進むことすらしなかった人間が、懸命にこれから前に進もうとしている。
 恥ずかしながら僕、この映画を観ていて最後には「あれだけ最初はダメダメだった一子ですらこんなに変われたんだから、俺もやらなきゃ!」って思ってしまったんですよね。たかが映画のはずなのに心が大きく動かされた。
 先週観た『クリード』の方は予算も100倍位大きくて、話もドラマティックで、もちろん役者さんの役作りも相当なものですが、どっちの主人公を心から応援してしまったかと言うと『百円の恋』です。

 

 以上が本作『百円の恋』の感想となります。
 日々の生活に疲れている人や、何か自分を変えたいと思っている人には勇気づけてくれる本当に"いい映画"でした。ぜひオススメです

 

※今回紹介した作品はAmazonPrime会員の無料体験でも視聴可能です。

 

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