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運が悪い事への論理的な説明『ちはやふる 上の句』

 AmazonPrimeで映画『ちはやふる 上の句』を観ました。

 2016年に公開され、主演の広瀬すずの名前が世間に知れ渡ったヒット作。共演は野村周平と真剣佑。(広瀬すずが主演としてクレジットされているものの、映画としては野村周平の目線で進行)

 先日『ビリギャル』のレビューをしましたが、『ビリギャル』が予想に反して良い作品だったため、その流れで前々から興味のあった『ちはやふる 上の句』を鑑賞しました。予告からも映画が丁寧に作られている印象があり、またレビューサイトでの評判も高かったのですが、いざ観てみると事前の期待を大幅に上回る傑作でした。

 

 まず本作の良かった点としては「競技かるた」の世界を知れたこと。

 こういったマイナーなジャンルでのスポ根映画というのはもはや日本のお家芸になっており、有名なところでは周防正行監督の『Shall We Dance?』、矢口史靖監督の『ウォーターボーイズ』があります。その系譜をたどる本作は日本人であれば誰でも知っている「かるた」の競技版である「競技かるた」を、時にリアルに、時にコミカルに描きます。(まぁ漫画原作なのでコミカルになるのは当たり前ですが)

 競技かるたは映画を見れば分かる通り、もはやスポーツの域に達していて、競技者がバシバシと札を取っていく様子はかなり爽快でした。主演の広瀬すずや野村周平がかるたを取るときには効果音も適度に強調されており、その音がまるでチャンバラ映画を観ているときのような心地よさがあります。競技シーンもカメラが床を通り抜けて、床の下から登場人物の顔を映し出すなど、撮り方も工夫されています。しかし効果音にしろカメラワークにしろ、過度には強調しておらず、特に効果音であれば大半の人は音が足されていることに気づかないでしょう。そういったリアリティを守るラインの線引が的確なので、集中力を切らすことなく最後まで映画を見ることができました。これが下手な映画監督であればチャチなCGを使ってかるたの札を光らせたり、余計な演出が入りそうなものですが、とにかくそういったものがなかったのが非常に良かったです。

 競技かるたについてもスタッフがちゃんとルールやテクニックを勉強しているのだなと分かる構成になっていて、次から次へと「へぇ、競技かるたってこんなふうになってるんだ」と驚くことの連続で飽きることがありませんでした。取り上げるトピックがあまりにもマイナーすぎると説明シーンを入れないといけなくて、ダメな監督だと登場人物に長々とセリフで解説させたりするんですよね。しかしかるただと日本人であればみなうっすらとは知っているため、そこまで説明に時間をかける必要がありません。なのでルール解説でストーリーのテンポが損なわれることがなかったというのも、本作を楽しめたポイントです。

 次の良かった点は広瀬すずの地に足がつくかつかないかのアイドル力です。

 例えばこの映画の主演が小松菜奈×野村周平や池田エライザ×佐藤健だったら「お前ら絶対競技かるたやらねーだろ」となります。ところが広瀬すずはとびっきりのかわいさを誇るのですがどこか親近感があり、ギリギリ競技かるたをやりそうな余地があるのです。

 広瀬すずの初登場シーンは冷静に考えるとかなりコミカルな演出になっているのですが、本人のかわいさが非現実的なものですからそちらに気を取られて演出に違和感を感じませんし、初っ端からそんな調子ですから「あ、この映画はこれぐらいのリアリティラインで話を進めるのね」と理解できます。

 他の登場人物たちはキャラクターとしていかにも漫画原作らしいデフォルメされた性格をしているのですが、それも広瀬すずによってリアリティラインを押し下げられているので特に気になりません。「こういうキャラクターがいたらストーリーとして面白くなるけど、リアリティはなくなるよな」といったことがあるのですが、そこを広瀬すずのアイドル力によって押し切っています。

 そして最後に良かった点として特筆すべきは主人公の運が悪いことへ論理的な説明がある点です。

 本作のストーリー的な主人公は野村周平扮する真島太一になるのですが、彼には「ここぞという局面でいい札が詠まれない(←運が悪い)」という設定があります。これが出た瞬間に僕は「ははーん、これは映画のクライマックスで主人公が運に頼らないといけない場面が出てきて、それが最後の最後でツキが回ってきて勝利するっていう安易な展開だな」と予想したのですが、結果としては全く違いました。

 僕は日本の映画のこういった「頑張ったら運が向いて勝てた」という安易な展開が大嫌いで、特にこの傾向が強いアイドルスポ根映画は意図的に避けるようにしていました。しかし本作では「なぜ彼は運が悪いのか」という点について、少なくとも日本人であれば理解できるような論理的な説明がついていたのです。

 この点に僕はいたく感動いたしまして。「運が悪い事への論理的な説明」など、今まで見たことがありません。それでいてラストも運に頼ることなく「自分が運が悪いことを逆手に取った戦略」によって見事勝利を勝ち取るのです。

 

 『ビリギャル』からの流れで何気なく見た本作ですが、今まで観てきた邦画の中でも上位にランクインするほどの傑作でした。対象年齢としても老若男女問わず楽しめる、オススメの作品となっています。

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