AmazonPrimeVideoで『ナックルガール』を観ました。
※今回の作品はAmazonプライム会員であれば無料で視聴可能です。
上映時間
107分
オススメ度
星5点満点中:★★
ストーリー
<日本人キャスト><韓国クリエイター>で贈る、謎の組織と国家権力に立ち向かう蘭(三吉彩花)を描いた本格アクション映画。失踪した妹・柚希(南琴奈)に絡む犯罪を突き止めた蘭は妹を救うべく、謎の組織が所有する格闘場での試合に参加することとなる。無法地帯で行われ、大きな危険を伴う試合に蘭はグローブの代わりにナックルをはめる。果たして蘭は妹を救えるのか―<Amazon>
感想
※今回はネタバレ全開となっておりますのでご注意ください
AmazonPrimeVideo企画×韓国のウェブトゥーン原作×三吉彩花主演で制作された本作『ナックルガール』。僕はこの原作漫画は未読なのですが三吉彩花が好きなのと予告編がなかなかに面白そうだったので配信開始から早速鑑賞いたしました。
いやまぁ内容としては「ザ☆漫画原作映画」でしたね。三吉彩花ファンかつビールを飲みながら気軽に観ていたので最後まで鑑賞できましたが、特にキャストにも企画にも思い入れのない人が本作をフラットに観たらまぁ「面白い」とはならないんじゃないかなぁ。
まずストーリーがあまりにも "漫画" なんですよ。主人公・蘭(三吉彩花)は妹が何者かに殺され、真相を追ううちにとある巨大企業が地下格闘技を主催していて、そこで違法に賭博行為を展開していることを知ります。地下格闘技場の主催者は賭け金が減少傾向にあることから再び客を呼び戻すための目玉として蘭を「ナックルガール」として無理やりイベントに出場させるのですが―
…とここまで聞いてみても、「表向きは大手企業が裏で地下格闘技を主催してる」というのがもうリアリティがないんですよね。そこで主催者というのが伊藤英明で、この男はファイター上がりからマネジメント側に回っているので未だに戦いに関して未練があって… って造形がもう漫画『バギ』に出てくるキャラクターなんですよ。それにこの大手企業の(実質の)No.1が窪塚洋介で、No.2が伊藤英明という配置。それでもってこの企業が経営会議をしているときは常に薄暗いところでやっていて、邦画の悪い癖である「悪役は薄暗いオフィスで会議」が出てきちゃってます。ちなみに物語の途中からITに詳しいオタク味方キャラが出てくるのですが、彼がPCを触るときも暗い部屋でモニターの光だけでカタカタやるんですよね。いや、目が悪くなるからPC触るときは部屋を明るくしなって。
張った伏線はとにかく回収せずに物語が終わっていきます。僕は当初30分観た時点であまりにもてんこ盛りな伏線が出てくるので「いやいや、これだけの伏線を2時間の尺で回収しきれる訳無いじゃん。あー、Amazonだから完結せずに続編ありきで終わるのか」と思っていたら伏線は放置のまま無理やり完結させていて驚きました。昨今話が完結せずにズッコける映画は多々ありますが、まさか完結してズッコけるとは思いもしませんでした。主人公・蘭とその妹は幼少期に親戚の家に引き取られるのですが、その設定が生かされることはありません。長らく連絡を取っていなかった妹の死を知らされて、それが信じられず彼女の跡を探るわけですが、遺品のひとつとして会員制クラブのカードキーが出てくるわけです。「妹は清楚に見えて意外と遊んでいたのか?」となるわけですが結局真相は明らかにならないんですよね。後半ではどうも妹は無理やり誘拐されったぽい描写が出てくるのですが、となるとあのクラブのカードキーはなんだったのか。
それに蘭が妹にこだわる理由がちょっと薄いかな~と感じました。設定としては長らく会っていなかったはずなのに、妹の死の知らせを受けて、最初から「あの子が自殺なんかするわけ無い!」と信じてないテンション。引き取られた親戚の家で虐待を受けていたという描写もあるのでここは「ヤクザから借金をした状態で両親が自殺してしまったため、その支払を肩代わりすることになった蘭。いつか妹との平穏な生活を手に入れるため、腕っぷしが強かった蘭は海外で違法な格闘技イベントに出場し、賞金を荒稼ぎする。あとひとつ試合に勝てば借金はすべて返せるという状態で妹が自殺したとの報せが入り―」という設定だったら妹にこだわる理由もわかるし、蘭の強さも説明できたんじゃないかなぁ。
あと割とアクション映画としては致命的なのですが、アクションの撮り方が下手な点が挙げられます。劇中大きな山場として「工場」と「地下格闘技場から逃げるときの廊下」があるのですが、場所の設定がダメダメすぎます。工場は通路が狭いし手すりがあるので大振りなアクションができないんですよね。だからコンパクトなアクション設計になっているのですが、それに加えて工場のパイプやら何やらが重なって何やってるか分からないんですよ。同じ工場アクションでも『ザ・ファブル』はうまいことやっていたのにそれとは大違いです。地下格闘技場から逃げるときの廊下もアクション監督が何を考えてるのか分からないのですが、真上からのアングルでアクションを撮るんです。いや、廊下が狭くてカメラが置けないのか知らないけど、そのポジションはないだろ。1カットごと壁をくり抜いたりして丁寧に撮れや。
三吉彩花もアクションは頑張っているのですが、それでもやっぱりあれだけ線の細いモデルのお姉ちゃんが成人男性に格闘で勝つ理由が浅いんですよねぇ。蘭は一応プロボクサーという設定ですが、総合格闘技ならまだしもプロボクサーであそこまで強くはならないでしょ。『トゥームレイダー』のアリシア・ヴィキャンデルや『アトミック・ブロンド』のシャーリーズ・セロンでも「女性が格闘技で成人男性に挑むにはどういうアクション構成にすれば説得力が出るのか」と真剣に考えていましたが、『ナックルガール』の場合はそこが詰められていないのが辛かったですね。
ここまで酷評してきましたが、良い点としてはまず「画面に貧乏臭さがない」というところですね。Amazon制作で制作費があるからなのか近く闘技場を始めとして凝ったセットを作っていて「お金がなかったんだろうな」と思うところはありませんでした。あそこまでセットをちゃんと作り込めるんだから、もう少しロケ地を考えれば昔の日活映画のように無国籍映画のようになったんじゃないかなぁと思います。
僕が特に良いなと思ったのはライティングですね。三吉彩花の顔にガンガン影を落とす。邦画の悪いところって事務所の力が強すぎるのか、とにかく女優さんをキレイに撮ることが最優先で顔の前面にライトを当てるので、画面がのっぺりとするんですよ。でも本作の場合はちゃんと三吉彩花の上にも影を落としていて、画面が立体的になっていました。三吉彩花はやっぱり仏頂面が似合う女優さんなので影を落としてほしいし、物語的にも終始笑顔がない設定なのが良かったですね。
それにしてもまぁ三吉彩花は顔もスタイルも異次元ですよね。佇まいが別格ですもん。僕が三吉彩花を好きになったキッカケはglobeの『departures』のPVを観たから(PVで三吉彩花が主演している)なのですが、三吉彩花もちゃんと鍛えれば日本のシャーリーズ・セロンぐらいにはなれるんじゃないかなぁ。そういった点では残念な点と今後の期待を持てる作品ではありました。