自分もアラサーとなり、周りでも続々と子供が生まれ、早いところだと上の子がもう小学生になろうとしています。ここまで夫婦関係が成熟してくると、夫側や妻側がどのような態度を取っているとどういう結果になるかの答え合わせが続々と出始めています。
僕の知り合いに奥さんのほうがバリキャリ女性として大黒柱を担い、旦那の方が家庭に入ったという夫婦がいます。数年前に知り合いである旦那の方が家庭に入るという話を聞いて以来続報を聞いておりませんでした。しかし数ヶ月前に共通の友人を介してその夫婦の顛末を聞いたところ、これが本当によくできた話となっていたのです
男女平等を推進する世の中にあって色々と示唆を含みつつも、ある程度年齢のいった人間であれば誰もがうなずいてしまうような話。今回はそのエピソードについて書いていきたいと思います。
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その夫婦は僕と同い年で、旦那の方が関西大学の文学部出身というところから車のディーラーの仕事をしていました。パッと見は穏やかな青年で営業マンとは思えない風貌。しかし売上はかなりあったそうで、30歳になる前には役職もつき、年収は600万を超えていたそうです。片や奥さんの方は大阪大学の理系院卒で、確か薬学部ではなかったはずなのですが卒業後は大手製薬メーカーの研究者として就職。こちらは30歳を超える前には年収700万円を突破していました。
二人は奥さんが就職するタイミングで結婚をし、30歳目前には世帯年収1300万円とパワーカップルとして悠々自適な生活を送っており、非常に仲が良かったとのことでした。しかしもうすぐお互い30歳になるということで「そろそろ子供を…」という話に。幸運なことに子供はすぐできたとのことでした。
子供ができるのは良いのですが、ではいざ生まれたらどちらが家庭に入るのか。その時奥さんの方は研究者として大手製薬メーカーに勤めている関係で「ここでキャリアを中断させるのはもったいない」と家庭に入ることには消極的でした。一方旦那の方はディーラーの仕事でお客さんが事故に遭えば夜中でも対応しなくてはいけなかったりと、拘束時間が意外と長く、前々から転職を考えていたのでした。それでもって営業の仕事であれば多少キャリアが中断されたも再就職は割と容易だろう、また子育てをしつつ次の就職先をゆっくりと考えようということで旦那の方が家庭に入ることにしたのでした。
ここで奥さんというのが元々ジェンダーと言いますかフェミニズム的な思想がかなり強い人だったらしく、かねてから日本の「男は仕事をして、女は家庭に入る」という遅れたジェンダー観に嫌気が差していたそうです。ただ奥さんの偉いところは「女だからといって低く見られるのは嫌だけども、かといって昨今の男女平等ムーブメントで過度に持ち上げられるのも嫌。仕事の結果で平等にジャッジしてほしい」と責任を負うべきところは責任を負う姿勢でいたのです。
大手企業勤務ですので本来であれば会社の福利厚生として産休・育休が手厚く完備されている会社にあって、奥さんは会社からの再三の制止を振り切って出産後早々に現場に復帰。旦那の方は元々家庭的なところもあって家事育児は完ぺきにこなし、奥さんが家に帰ってくるのと同時に温かいごはんを出すようにしていました。奥さんの方は仕事に完全にコミットできるようになり、それでいて帰ればいつも温かいご飯が用意されている。素晴らしい環境を用意してくれる自分の夫に感謝しつつ、それ以上に周りから散々苦言を呈された「女が仕事をして、男が家庭に入る」という体制を何の問題もなく実現できていることに喜びを感じていたそうです。
…ところが子供が生まれてからすぐの頃は夫に感謝できていたはずが、段々と心にモヤモヤとしたものがあることに気が付きます。家事も育児も完璧にこなしてくれていて非の付け所がない。不満なところは何もないはずなのになぜか素直に感謝できない。夫の方から二人目はどうするかと聞かれ、自分自身二人目は欲しいし、このまま産んでも何も問題はないはずなのに… なぜか気が進まない。
そうしているうちに子供も一歳になろうとしているところで、奥さんの会社で部下が重大なミスを犯してしまいます。これによって奥さんは責任者として客先に頭を下げにいかないといけないし、ミスの解析と再発防止策を立てなくてはいけない。それでいて通常業務も滞ることなくこなさないといけなく、毎日23時過ぎにやっとオフィスを出て、日付が変わるか変わらないかのギリギリで家に帰るという生活が続くようになります。
ミスが起きてから2ヶ月近くが経ち、いよいよ疲労のピークというときに、奥さんはいつものようにヘトヘトになりながら深夜24時に家のドアを開けます。そうするとまず目に飛び込んで来たのは「夫が本当にのほほんと自分の子供のオムツを替えている姿」でした。それを見た瞬間、言いようのない怒りが奥さんの体を駆け巡ります。更に悪いことに次の瞬間、自分の帰りに気づいた旦那が「おかえり」と言うでもなく駆け寄ってきて「あのさぁ、仕事、もう少しどうにかならない? いっつもこれぐらいの時間に帰られたら俺もうワンオペ育児じゃん。今からでも会社に言って負荷下げられないの?」と言うのです。
これには奥さんもさすがにプチンときて「あんた誰のお陰で生活できてると思ってんの!!??」と返してしまったそうです。この発言は奥さん自身も驚いてしまって、要するに「誰のお陰で飯が食えると思ってるんだ」という日本の遅れたジェンダー観の象徴のようなフレーズを、まさかこの自分が言うことになるとは思わなかったのです。
この一件があり、二人は将来についてとことん話し合ったそうです。
その結果奥さんは仕事をセーブし家庭に入り、旦那の方は働きに出るようにしたのです。
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今回のお話はどちらが悪いということでもなく、お互いがお互いでつらい状況にありました。
旦那の方は男でいわゆるワンオペ状態になり、子供の教育のためにも地域の交流会などに積極的に参加していたそうです。そうすると当然のことながら男親というのは彼一人だけになります。最初は周りのママたちも「イクメンですね~」「うちの夫も見習ってほしいですね~」とチヤホヤしてくれるのですが、しばらくすると招かれざる客扱いをされると。
子供が泣き出しておっぱいをあげないといけなくなったときに、同じ空間に女性だけしかいないなら部屋の隅でサッとあげればいいものの、男がいるとどうしても抵抗がある。子供のオムツを替えるのだって、それが女の子の場合、何という話ではないですが男親の前ではあまり替えたくない。子供が女の子同士だったら少し話も変わってくるのでしょうが、彼の場合子供が男の子ですので気を使わざるを得ない。また交流会では当然のごとく「奥さんは仕事を何やられてるんですか?」と聞かれるわけですが、そこで「製薬メーカーの研究者としてバリキャリやってます」と話すと「(あぁ、あんたはヒモやってて、稼ぐ能力もなかったから家庭に入ったのね)」と下に見られることが多くあったのです。彼としては関西大学という一流大学出身で、しかもディーラーとして役職もついていたので、そういった態度を取られるとひどくプライドが傷つけられ、ずっとフラストレーションが溜まっていたのでした。
奥さんも奥さんで、本人もバリキャリ志向ということでポジションを与えられ、会社の意向もあってメンバーが全員女性というチームを率いていたのです。しかし今回部下がミスを犯して後処理に奔走してみても、ミスを犯した本人はもうすぐ結婚して家庭に入るということでイマイチ当事者感がない。仕事が一番ピークのときには体よく「責任を取って退職します」と言い出す始末。頼りにしていた先輩は子供もいて、ここぞというときに「子供に熱が…」と言って逃げられてしまう。何よりもメンバーからは「あんたはバリキャリ志向で役職もついて大金もらって、家事育児は旦那に押し付けて身軽なんだからあんたが最前線で責任取れよ」という目で見られていたのが一番つらかったとのこと。
今回の一件で奥さんは「今まで自分が嫌で嫌で仕方なかった、日本の遅れた慣習にも一定の合理性があったのがよく分かった。私だけは違う、私はうまくやれると思ってたけど、少なくとも今の日本で自分が会社で死ぬ思いして仕事して、夜12時超えて家に帰った瞬間旦那がのほほんと子供のオムツ替えてる姿を見て、それにトキめける女はいない」と語ったそうです。
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これはあくまで自分の主観のお話ですが、女性は往々にして「こうしてもらえれば自分は幸せになる」と語ることを、いざ実際に実行すると「幸せになる」どころか「逆に不満を口にする」ことが少なくありません。
僕は新卒でブラック企業に就職して、20代後半でエンジニアに未経験転職したこともあって、20代の間はずっと年収が300万円程度しかありませんでした。特に20代後半のときに、たまに自分が良いなと思う女性と出会って「なんで前の彼氏と別れたの?」と聞いてみると「前の彼氏は背も高くてカッコよくて、一流企業に勤めてたから魅力的だったんだけど、モラハラ気質だったのが耐えられなかった。だから人をステータスで選んじゃダメだなって思った」と返ってきたりします。そこから仲が深まって、最後の確認的に「そういえば東城君、仕事は何やってるの?」と聞かれ、この子なら大丈夫だろうと思って勤めている会社や年収の話をすると、その瞬間顔から表情が消えることが何回かありました。
振り返ってみれば思えば青々しすぎますね。「だってそっちがそう言ったじゃないか!」と言いたくなることは山程ありますが、特に男の場合は結果が全てで言い訳なんか聞いてもらえない。
普段よく「女性は賃金が差別により抑えられているから自分より年収の高い男を望むのだ。女性の賃金が上がれば自然と男を養うようになる!」と耳にしますが、統計を見るとこれは事実に反していて、やっぱり女性は自分の年収が上がれば上がるほど、相手にもそれ以上のスペックを求めるようになるのです。
それでも相手の言うことを信じてみるのか、その先の結末を察知して別の行動を取るのか、その選択が求められます。