プログラミングができるアイドル「プログラマーアイドル」が現在メンバーを募集しているそうです。
ざっと概略をお話すると、このグループは大阪でプログラミングスクールを経営している株式会社BringOnが主体となって進めるプロジェクトで、選ばれたメンバーは自社の学習システムである「FIRST CLASS」を利用して無料でプログラミング学習を進め、現在の学習状況などをSNSで発信しつつアイドル活動も並行で進めるとのことです。
僕が初めてこのアイドルグループのコンセプトを聞いた時は「アイドルの子たちは無料でプログラミングを覚えることでお金を稼ぐ手段を得れるし、会社は自社の学習システムを宣伝できるし、視聴者は活動を応援しつつもどうやったらプログラマーになれるか理解できるし、三方良しじゃん!」と思ったのですが、Twitterやその他のネットの反応を見るとどうも世間では好意的に受け止められていないようです。
「なんでプログラミングを広めるのにアイドルなんだ!!」「プログラマーと女性をバカにしてる!!」などとひどい言いようなのですが、僕としてはプログラミングを広める上でアイドルを活用するのはこの上ない良案だと思いますし、何よりアイドルを作ることがどうしてプログラマーと女性をバカにすることになるのか理解ができません。
とはいえ、この企画を見た時に直感的に嫌な気持ちになってしまったのであれば仕方ありません。それを僕が正面から「いや、この企画良くね?」と言ったところで一度嫌悪感を抱いてしまった人の気持ちを変えることはできないでしょう。
この企画は特にプログラマー(エンジニア)たちからの反発が大きく、僕は「プログラマー界隈以外の人間が苦言を呈すのは分からなくないけど、プログラマーがこの企画を悪く言うと却って自分たちの首が絞まるだけだぞ?」と思うのですよ。
なので今回は「なぜプログラマーアイドルを批判すると却って自分たちが損をするのか」について3つの理由をベースに解説したいと思います。
外貨を稼げるプログラマーのなり手を減らすと景気が悪化する
昨今、新型コロナウィルスが猛威を振るい国内のサービス業が壊滅的な状況にある中で、感染症などの外的要因の影響をあまり受けず経済活動を継続することができるプログラマー(エンジニア)が注目されつつあります。
特に日本のような資源のない国において比較的少ない原資で、かつ、外貨を稼ぐことのできるIT産業は非常に重要な役割を担っていて、一人でも多くのプログラマーを輩出して1円でもいいから外からお金を稼いでこなくてはなりません。
そんな時にアイドルという「世間的にはあまり頭がいいとはジャッジされ難いキャピキャピした女の子」が楽しげにプログラミングに触れる様子を世間に発信することで「プログラミングができるとあんな物が作れるなんて羨ましいな!」「あの子たちでもプログラミングができるなら俺もやってみようかな!」とファンや視聴者に思ってもらえるわけです。
「なんでプログラマーを増やすのにアイドルという媒体を使うんだ!」と憤慨されている方もかなりの数いらっしゃいますが、じゃあ逆に僕のようなアラサー非モテクソガリ陰キャメガネが家の中でハァハァいいながらプログラミングをやっている姿を発信したところで誰がプログラミングに興味を持つというのでしょうか。
日本はこれから先、プログラマーが不足することが確定しています。プログラマーが不足するということは外貨を稼ぐことができなくなるので日本の景気は世界に比べて確実に悪化していきます。国内の景気が悪くなれば当然国民一人ひとりの経済状況も逼迫してくるわけですから、ここでプログラマーのなり手を増やす活動を阻害するのは、いわば自殺行為と言っても過言ではありません。
競技人口を減らしても自分のパイが増えるわけではないし、むしろ減る
産業でも文化でも、何かを発展させようと思うとまずは競技人口の頭数を増やさないとダメなんですよ。
世間では「競技人口を減らせばそれだけ同じパイを食べる人間が減るから、相対的に自分の取り分が増える」と考えていしまう人がいますが、それは間違いです。
例えば漫才を思い浮かべてみてください。
M-1が登場する直前の1990年代末期なんてベテランの漫才師が休日昼間のNHKで1時間程度ネタをやる程度で、我々視聴者がお笑い芸人さんのネタを見る機会なんてほとんどなかったじゃないですか。
じゃあ当時のような「競技人口が少なく一部のベテランしかネタをやれなかった時代」がお笑い芸人にとっても視聴者にとっても幸せな時代だったかと言うとそうではないと思うのです。
それがM-1が登場して漫才の競技人口が一気に増加するとお笑いの質も同じように急激に向上して、視聴者もお茶の間でより面白いネタを見ることができるようになったし、お笑いブームのおかげで芸人さん自身にもより多くのお金が落ちるようになりました。
他の例で言うならYouTube。
YouTubeだって広告収入で稼げると分かってからは色んな人が参入したことで投稿される動画のクオリティも劇的に向上して、そのおかげで僕たちは一日中家にいたって動画を見て時間を潰せるようになったじゃないですか。
確かに広告収入の1再生あたりの単価は下がったかもしれませんが、競技人口が圧倒的に増えたことでYouTuberという存在が世間にも認知され、それで地方のイベントにも呼ばれ広告収入だけではない収益化の形も得ることができました。
このように競技人口が増えれば増えるほど同じパイの取り合いになるのではなく、パイ自体が大きくなるんですよ。
逆を言うと競技人口を減らすと自分のパイが小さくなるだけで、その先に待っているのは一部のベテランだけが利益を独占する今以上に過酷な競争社会なのです。
自分の活動の幅を狭めることになる
さて、先程から繰り返し出ている「なぜプログラミングを広めるのにアイドルなんだ?」ということですが、これに関して僕は
「ジャニーズアイドルだってAKBだって、番組の企画で資格の勉強をしたりしてるけど、それはOKでなんでプログラミングアイドルはNGなの?」
と思うんですよ。
「彼らは元々アイドル活動した上で資格の勉強をしてるからいいんだ!」と言うのであれば「ならなんで先にアイドル活動していた上で資格の勉強はOKで、プログラミングとアイドル活動を同時並行的にスタートするのはNGなの?」と返すしかありません。
「アイドル活動の片手間にプログラミングをやるだなんて、アイドルにもプログラマーにも失礼だ!」というのも、先述のジャニーズやAKBの子たちがフォークリフトの免許をとったり調剤事務管理士の資格をとったりと、おおよそ今後のアイドル活動には直接的に関わってこないようなものを片手間で取得されたら、それこそそっちのほうが「本業でやっている人にとって迷惑」なんじゃないですかね。
この手の話はかつてキングコング西野さんが「絵本を書くためにクラウドファウンディングをやる」「書いた絵本を無料公開する」と言って炎上した時に散々議論されていて、過去の自分の発言が残ってしまうSNS全盛の時代において「自分が理解できないものはとりあえず批判する」ということやってしまうとあとあと自分の活動の幅を狭めるだけになってしまうんですよ。
だって「アイドル活動の片手間にプログラミングをやるな!」と声高に叫んでしまったら、今後もしも自分の好きなアイドルがプログラミングに挑戦することになったら同じ口調で批判しないと筋が通りません。
今プログラマーの方も、もし将来的に自分がプログラミング以外のことに興味が出て、空いた時間にそれをやろうものなら過去に「片手間でやるのは本業でやっている人に失礼」と言った手前、潜在意識レベルで心理的なブレーキが掛かってなかなか新しいことにチャレンジできない体質になってしまいます。
以上が「なぜプログラマーアイドルを批判すると却って自分たちが損をするのか」の解説でした。
今の日本ではうっすらと「新しく仕事をしようと思うと最初から崇高な志を持っていなければならない」「仕事をするのであればお金を儲けようと考えてはいけない」という機運があります。
とはいえ現在プログラマーをやっている人だって小さい頃から「俺は将来プログラマーになるぞ!」と思ってプログラマーになった訳じゃないじゃないですか。
なんとなく自分は理系のほうが得意で大学は工学部に進んで、就活するとなるとIT企業しか選択肢になかったからプログラマーになって。始めは大してやりがいも感じなかったけれど、段々と大きい仕事を任されるようになっていくうちにプログラマーの仕事が面白いなってなっているパターンがほとんどだと思うんですよ。
漫才やYouTubeだって「楽して儲けれそう」「面白そう」というイメージが最初にあったからこそ競技人口も増えて、それ自体の質も劇的に向上したわけじゃないですか。漫才がYouTubeが発達したのも崇高な志持った人間がある日突然大挙として現れたわけじゃなくて、競技人口が増えたからこそ競争が生まれクオリティが向上したし、競技人口が多いからこそそこから天才が生まれる確率が格段に上がったのです。
だから「プログラマーアイドル」のような言葉の響きだけ見て、中身をよく理解しようとせず条件反射で批判してしまうと、回り回って自分の首が絞まってしまうよ、というお話でした。
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