※当サイトではアフィリエイト広告を利用しています

考え方

未経験エンジニアを入社一年以内に退職させない方法

 市場価値に見合った給料を払う。以上。

 

 で終わらせたいところですが、これだけでは記事としてあまりにも寂しすぎるのでもう少し詳しく書きます。

 

中小のIT企業人事による歯切れの悪い記事

 昨今の社会情勢からITエンジニアの地位も非常に高まり、中途からエンジニアに転身する人の数も年々増えてきました。しかしせっかく企業が未経験の人間を中途から採用してみてもある程度時間が経過し未経験のバッジが外れた直後に他社に転職したりフリーランスに転身してしまうことも多く、教育コストを回収する前に社員が辞めてしまう、いわゆる「採り損」になっている状況をボヤいた中小のIT企業人事による記事が1クールに1度はネット上で大きくバズを呼んだりします。

 とはいえこういった人事の記事はどれも歯切れが非常に悪く、読んでいてもとてもモヤモヤします。まるで「納期の直前で上司から『なんか気に入らない』という理由で仕様変更が入り、時間もないので大して検査もしないまま納入したら案の定バグが見つかり、再発防止書を書かされるものの『上司の気まぐれが今回の真因』と上司を悪く書く訳にもいかないから無理くり現場の人間たちが悪かったことにして出す」再発防止書のような歯切れの悪さです。

 

嫌でもお金は出したくない

 それもそのはず、未経験エンジニアを早期に退職させない方法は「市場価値に見合った給料を出す」以外なくて、そんな解決方法は考えれば1秒で思いつくわけですよ。人事もそれは分かっていて、でもお金は出したくない、だけど早期退職するエンジニアには腹に据えかねてる、というところで彼らを断罪する記事を書きたいけどあまりにも踏み込みすぎると「辞められたくないなら給料出すしかなくない?」と言われてしまうのでギリギリまでしか書けず、書ける内容も基本的に「早期退職されてうちの会社はこんなに困った」「早期退職されると未経験エンジニアの採用は取りやめになることが多いから、後進の道を塞ぐことになるよ」と被害者ムーブなものとなってしまうのです。

 未経験エンジニアの立場からすると就業して1年ほど経過し、他社で現状の年収から+100万円提示されているのに今の会社で働き続けるということは「今の会社に100万円払って仕事をする」のと同じことを意味します。企業側としては「教育コストの回収が終わってないから、2年目でいきなり給料を上げるのは難しいのだ」と叫んでみたところで、いざ教育コストの回収が終わったらいきなりドカッと給与を上げるかと言うとまずあり得ません。他社では+100万円の年収が提示されている傍ら、今の会社では今後も大幅な昇給は無しと言われても継続してその会社で働き続けられる社員はなかなかいないでしょう。仮に転職を踏みとどまったところで他社で+100万円提示されているのにそれに飛びつかない/飛びつけない社員が、貪欲に売上を追い求めて会社に貢献してくれるとも思えないのですが、会社はそれでいいのか。

 人事の書く記事では「未経験エンジニアが早期退職するとその後社内では『なぜ採用で見抜けなかったのか』という大反省会(激詰め大会)が行われることが多い」とあるのですが、「社員に正当な賃金を払う」というところをスポイルして「なぜ見抜けなかったか」だけを詰めるあたり、彼らが欲しがっている人材というのは「高度なスキルがありながらも低い賃金で働き続けてくれる奴隷」なのでしょう。記事を読んで1手先、2手先を読めば真意が簡単に読めてしまう記事を臆面もなく公開してしまうあたり「そりゃ有能な人材は居着かないだろう」といった感想です。

 教育コストの低減や早期退職を減らしたいのであれば、例えば採用の基準としてIT資格を所有していない人は採用しないという方法があります。実際「資格を持っていない人は採用しない」とは大々的に打ち出しづらいので、募集要項には「○○の資格を持っている人は面接確約で交通費支給。内定が決まった場合△△万円支給!」などと書いてみる。資格を持っていない人間は書類選考で弾いてしまえばいいのです。

 ひとつ資格の例を挙げるとJavaは市場でも未経験者向けの案件が数多くあるので、志願者にはJava Silverの資格を取得してきてもらう。そうすれば会社側は未経験者の素養を見極めることが出来るし、入社したあとでも早期に案件にアサインできる。内定時に資格報奨金として数万円出したところで、無資格の裸一貫で入社され研修として1ヶ月自社で研修することになったら数十万飛んでいくので、コスパとしては全く悪くない。志願者の方は入社前に勉強した内容を仕事にできるのでミスマッチが減る。

 採用のやり方一つで各種コストを減らすことはできるのですが、Twitterやブログで嘆くひとたちにはどうにも思考の跡が見れないんですよね。

 

中小企業の研修制度

 未経験を採用しなくてはいけないような中小企業は往々にして研修制度が整っておらず、「未経験を採用しなくてはいけないからこそ中小企業は研修制度を整えなくてはいけない」のにもかかわらず「中小企業だからこそ研修制度を整える余裕がない」という悲しいパラドックスが発生しています。
 中小のIT企業が実施する "研修" など入社するなりボンッと『苦しんで覚えるC』を置かれ「とりあえずこれやっといて。分からないことがあったら聞いて」と、放置1ヶ月が関の山。そして自力でテキストを終えたところでOJTと聞こえだけは良い実戦投入が行われ、大して研修も行われていないため何が分からないか分からない状態で、上司に質問してみても「お前こんなことも分からないのかよ! 俺は忙しいんだよ。自分で調べろ!!」と怒鳴られ、日に日に萎縮。
 中途社員は意味のわからない仕事にモチベーションを下げ、そんな中途の姿に上司は「なんであんなやつ採ったんだ?」と人事にクレームを入れるも、人事の評価基準はあくまでも採用数なので「教育は現場の仕事」と知らん顔。中途社員はなんとか怒鳴られながらも仕事を1年続け、未経験のバッジが外れたところで他社から+100万円の提示がなされて即座に転職。その段になってやっと人事が責任を問われ「せっかく未経験から育ててやったのに…」とボヤくのですが、当の社員は「(いやいや、何も教育らしい教育はしてもらえませんでしたけど)」となるのです。

 中小企業にお金も余裕もないのは理解できますが、それなら「なぜ高い給与を払えないのかの説明」「キャリアプランに関する面談」「職場環境の改善」など、お金がない中でやれることをやるしかありません。それすらやろうとせず「黙って低賃金で働く社員の見つけ方」ばかり追っていれば、その会社の将来は決して明るくないでしょう。

 

この会社でなくてはいけない理由

 一度「自分は○○の分野で飯を食っていくんだ!」と腹をくくった社員からすると、中小企業で働くということは足かせにしかなりません。ITの分野で中小企業をやるとなると派遣やSESなど「社員それぞれが大手企業に常駐して働いているため、社員それぞれのやりたいこともやってることもバラバラ」な状態が大半な訳ですが、そんな中ですと自分はソフト開発をやっているのに給与査定をする上司はハード開発をやっているということも往々にして発生します。そうすると自分の現場での実績を伝えようにも上司がハードのことしか分からないため評価が不当に低くなりがちです。他にも自分の部下がどうもやりたいことと配属された現場がミスマッチのようでモチベーションが上がらない。こっちは必死にマネージメントをしているのに遅刻や欠勤が多発して「お前のとこの部下はどうなってるんだ! ちゃんとマネージメントしてるのか!!」と怒られる。そして自社の業務形態が派遣となると、派遣先のプロパーよりも仕事をしていたとしても市場ではあくまでも "派遣" としてしか評価されないため市場価値が上がっていかない。

 要するに「この会社(中小企業)でなくてはいけない理由」が無いんです。人事は日々面接で志望者に「弊社でなくてはいけない理由はなんですか?」と問うてる訳ですから、自分たちも社員に対して「弊社でなくてはいけない理由」を真剣に考えなくてはいけません。

 そんなにも未経験エンジニアに早期退職されるのが嫌なら、過去に辞めた社員から退職理由をヒアリングしてその意見を元に環境や制度の改善はしているのでしょうか。「転職されると教育コストがー」と言うものの、自社ではどういった教育を実施しているのでしょうか。右も左もわからないエンジニアに対して適切な指導はできているでしょうか。もし胸を張って「うちの会社ではこんなことをやっている!」と言える要素があれば恐らく未経験エンジニアは早期に辞めていかないでしょう。何より経験年数が浅い状態で転職するってものすごく面倒くさい作業です。会社に対して明確に恩義を感じられることがあれば人は案外辞めないものですし、新人の頃に会社からされた雑な扱いはずっと根に持つものです。

 

これからもITエンジニアの人手不足は続く

 「未経験エンジニアが早期退職すると、次からはその枠が無くなって後進の道が塞がれることになる」とは良く聞きますが、2030年にはITエンジニアが79万人も不足するとの政府の試算があるぐらいですから、エンジニアの売り手市場は今後も続くでしょう。今までは企業側の買い手市場で志願者に上から出れていた人事も、いざ売り手市場になり志願者(および社員)から厳しい態度を取らると激昂するのも情けない話です(普段他人にしていることをいざ自分がやられると激昂するというのはよく聞く話です)。

 日本は少子高齢化でどんどんIT人材が不足していくわけですから「中小にはそんな余裕はないんだよ!」と言っているばかりでなく、真剣に人材を育成する方法を考えなくてはいけないフェーズに来たのかもしれませんね。

-考え方

© 2024 名古屋とエンジニアリング