TBSの視聴者参加型の人気番組である『SASUKE』が放送されるたびにX(旧Twitter)で出回る画像があります。
こちらの画像、ネットミームとして数年前からよく見かけるようになり、「人生変わるって言っても飲み屋で声をかけられるぐらいかよ」と言った2コマ即オチ漫画のように、若干バカにされた文脈で用いられています。
しかし僕はこの画像について、単なるひとつのネットミームではなく、昨今の日本の社会を象徴している現象だなと思っています。
さてこの画像の主役である山田勝己さんは一介の素人挑戦者であり、初回からSASUKEに参加。自宅にもSASUKEを模したセットを作り、第3回大会では完全制覇まであと一歩というところまで迫ります。以降は本人のキャラクターもありSASUKEでは毎回ワンコーナーが設けられるほどの人気挑戦者となりました。
X(旧Twitter)やYouTubeでは1万フォロワーを超え、同じくSASUKEに挑戦する仲間を集めて「山田軍団・黒虎」というチームも作って精力的に活動しているようです。また「Mr.SASUKE」の名でテレビ出演やCM出演を数多く行っています。2024年の年末には『大晦日オールスター体育祭』という特番にてオリンピックアスリートたちと腕立て伏せ対決をし、見事優勝しています。
知名度だけで言えば、間違いなくそこら辺の役者さん・お笑い芸人さんより世間から認知されているでしょう。山田さん自身、街のどこにでもいる体力自慢のおじさんです。それがたかが視聴者参加型のテレビ番組のイチ企画に本気で取り組んだだけで並の芸能人よりも露出しているのですから、間違いなく「SASUKEで人生が変わった人間」です。
山田さんはSASUKEに挑戦することでどう人生が変わるかうまく言語化できていないだけで、本人はものすごく人生が変わっているのです。逆に言えば言語化がうまくできないアホさがあるからこそ、この行動や結果につながっています。
SASUKEに本気で挑戦するというのは冷静に考えるとものすごくコスパの悪いことです。たかがテレビのイチ企画で、最悪数秒しか映らないようなアクティビティです。でもそんなコスパが悪いアクティビティだからこそ結果が出たときに大きなリターンが得られるのです。
山田さんがもっと賢くて言語化が上手い人だったら全力でSASUKEはやらないでしょうし、それゆえに現在の地位にはいないでしょう。
そもそも素人がたかがテレビの企画に数分映っただけで、その翌日から飲み屋で好意的に声をかけてもらえるようになることは結構すごいことです。行く先々で「あんたSASUKEに挑戦してる人だろ? 応援してるから次は頑張ってね」と言われるのは人生のクオリティを大幅に向上させると思うんですね。
今回のネットミームもそうですが、今は愚直に頑張るということがし辛い時代だなぁと感じます。山田さんのスクショ然り、少しでも的を外したことを言えばこうやってミームとしてバカにされてしまうわけですから。
周りからバカにされる可能性の低いアクティビティとして資格取得などがあったりするわけですが、それもちょっとGoogleで勉強法を検索してみたり、SNSを見てみれば「○○時間で合格!」みたいなサクセスストーリーが溢れているわけじゃないですか。そんなストーリーの傍ら、自分が少しでも結果が出ないと「なんで俺はうまくやれないんだ!」と自己嫌悪してしまうわけですよ。
賢くやろう、つまりはコスパだのタイパだの意識してやると結局「そもそもやらない」っていう選択肢に勝てないわけですよ。ところがコスパやタイパ度外視の愚直なバカは最後までやりきるんで、結局中途半端に賢い人間に勝ってしまうという。
「効率」や「要領の良さ」を追い求めれば追い求めるほどゴールから遠ざかり、それを追い求めない人間ほどゴールに近づくあたりが、現代の日本を象徴しているなと思ったネットミームでした。