2020年10月24日に放送されたバラエティ特番『まっちゃんねる』内のコーナーである『女子メンタル』を観ました。
これは以前僕もブログで記事を書いたことがあるAmazonPrimeオリジナル番組『ドキュメンタル』の全員女性バージョンで、メンバーは「朝日奈央、ファーストサマーウイカ、ゆきぽよ、峯岸みなみ、松野明美、浜口京子、金田朋子」の7人。
全員がお笑い芸人ではないキャスティングながらネットでは絶賛の嵐。僕の周りでも評価が非常に高く、本放送から遅れること数ヶ月、先日やっと観ることが出来ました。
コンプラ規制の強化と高度化するお笑い
ここ数年、地上波のバラエティ番組を観ていても心の底から笑えるということが少なくなりました。
僕は「お笑い」というものには常に差別的な構造をはらんでいると考えていて、圧倒的多数の "普通" があるからこそ、そこから外れた"少数"の意見や行動が「いやいや、お前それはオカシイだろ」となり笑いが生まれると思っています。
しかし昨今の「多様性の時代」や「人を傷つけない笑い」といった風潮もあり、テレビ番組の規制がどんどん強化され、芸人さん自身も自分の思ったことを素直に表現出来ていない様子が見受けられます。自分自身が普段仕事であらゆるしがらみに振り回され、家に帰り仕事のストレスを発散したいとテレビを点けたところでやはりそこもコンプラによって芸人さんががんじがらめにされている様子を見るのは辛いところ。
芸人さんにはそういった世間の常識やしがらみから一番遠い存在であってほしいとは思うのですが、いざ芸人さんが昨今のコンプラに反する行動をしているのを見ると「こんなの放送しても大丈夫なのか?」と心配してしまうし、誰かに「『お笑いは差別的な構造を含む」って言って、じゃあお前自身が芸人からバカにされるような扱いを受けても問題ないというのか?」と問われると素直に返答が出来ません。
そしてお笑い自体も歴史が長くなり、M-1の漫才にも見て取れるように技術が高度化しています。最近ではフットボールアワーの後藤さんに代表される「スマートツッコミ」のように、お笑いもただ単純にバカをやるだけでなく、ある種の頭の良さが要求されています。
このように最近のお笑いはコンプラと笑いの技術の向上によって、仕事から疲れて帰ってきた状態で気楽に観れないのです。
あくまで女性タレントを揃えた女子メンタル
さて、そんな中で放送された『女子メンタル』。
最初はこのメンバー構成を聞いたときは「確かに女性タレントの中では面白いほうだけど…」と、あくまで「女性タレントの中では」という冠がついてしまいます。番組の冒頭でフジモンさんも「笑いが一つも生まれないということも有り得る」と仰っていましたが、僕もまさに同じ懸念を抱いていました。
今のお笑いに欠如していたガムシャラ感
しかし企画がスタートしてわずか数分で「笑いが生まれないかも」という不安は一気に吹き飛びました。まず、全員の「ここで売れてやる!」気概がものすごい。
『女子メンタル』に集められたタレントは全員お笑いが本職ではありません。だからこそ「今日ここで笑いが取れたら新たな仕事につながる」と思い、キッチリとネタを仕込んでくるのです。
金田朋子さんと松野明美さんは周知の通り天然系で、相手を自由に笑わせられるというフィールドでいつも以上にボケるボケる。浜口京子さんはシュールな "小窓芸" が本人の真面目さと絶妙なアンマッチを生み、観ているこちらを不意に笑わせる。朝日奈央さんはそれまで出演してきたバラエティ番組仕込みの正統派なボケを披露し、ファーストサマーウイカ さんは全体を回す役割を担うも意外なところでシレッと笑いを挟み込む。ゆきぽよは容赦なく他人にツッコミを入れ、峯岸さんはアイドルという枠を大幅に飛び出す捨て身のボケを放つ。
僕が特に笑ったのが、ゆきぽよが峯岸さんの坊主事件を容赦なくイジったところ。これ、今のお笑い業界ではなかなか難しいことで、もしお互いを笑わせ合うという企画に峯岸さんが放り込まれていれば、視聴者としては当然坊主事件のことに触れざるを得ません。ただここでもしお笑い芸人が坊主をイジってしまうと「あの芸人はアイドルを容赦なく汚す」ということで、今後アイドルとの共演は少なからず敬遠されてしまいます。ただしゆきぽよは芸能界に執着がないのか、一直線で峯岸さんをイジりだし、この場面には思わず大笑いしてしまいました。
お笑い芸人ではない女性タレントだからこそ、「うまいこと言って笑わせてやろう」という打算がなくとにかく荒削りなボケを繰り出してくる。これが普通の芸人であれば「今どきそんな低レベルな笑わせ方するなよ」と敬遠するようなものでも、それを自信満々にやるんです。僕が本家『ドキュメンタル』に抱いていた不満である「芸人さんが自らはあまりボケず、他人のボケにボソッとツッコミを入れて笑いを生もうとする」がそこには全くありません。
それぞれが用意してきたネタが前のめりで次々と披露されていくので、息をつく暇もありませんでしたし、それでいてキャスティングも絶妙で誰もがコンプラに引っかかるような芸をやる性質の人たちじゃないので非常にのびのびと笑わせ合いをしているのが好印象でした。
現代のコンプラの規制と、お笑いの技術が高度になり、頭空っぽで笑えることが少なくなった昨今のバラエティ番組で女性タレントがガムシャラに笑いを取りに行く姿が本気で笑えた、とても面白い番組でした。