最近Web屋さんがまた「AIの登場でエンジニアの仕事は奪われる」という雑な大口を叩いているのですが、なんでこうもWeb屋さんって「Webこそ世のすべて」「Webにあらずは人にあらず」みたいな態度を示す人が多いんでしょうね。
AIがエンジニアに限らず世の仕事の効率を大幅に改善させることは確かだとは思うのですが、ちょっと皮肉を込めて返すのであれば「『多分動くと思うからリリースしようぜ』なWeb業界ではそうかもしれんが、ひとつのバグで最悪人が死ぬ可能性がある組み込み系や、億単位の損害が出かねないインフラ系では難しいと思うよ。あまり簡単に人様の仕事に『お前の仕事はAIで無価値になったから将来的に無くなるよ』とか言うもんじゃないよ」といったところです。
AI推進過激派の方の中には「俺はもう1行もコードを見ていない」と言い出す人もいて「おいおい、さすがにそれはやり過ぎだろ」と思うわけですが、とかく推進派と静観派では意見が一致しません。僕は静観派なのですが、2026年5月時点での静観派としての意見をまとめておこうと思います。
AIがエンジニアの仕事に対して多大なインパクトを与えない理由
組み込み系のフリーランスエンジニアとして仕事をしている自分からすると、AIの登場で未経験者や初心者、いわゆるジュニア層の仕事は一時的に減ることはあっても「なくなる」と呼べるほどのインパクトを与えることは無いと考えています。
AIで生成したコードをそのまま製品に載せることは出来ないから
昨今のAIの進化はめざましく、簡単なプロンプトで驚くほど正確かつ的確なコードを出力してくれます。しかしAIが出力したコードをノールックでそのまま製品に載せられるかとなれば話は別です。
AIが出力してくれるコードはもちろん人が書くよりも精度は高いし、バグも少ない。しかしそれでノールックのまま製品に載せて不具合が出たら軒並み他のAI出力コードは再調査となります。
AIにより実装にかかる時間が少なくなった分、テストを厚くすると言っても全部が全部ブラックボックステストで済ませることは出来ないはずです。となると中身を一行一行解析しないといけないわけですが、それなら自分でコードを書くのとそこまで大差がありません。
そもそもAIに的確な指示を出すのにプログラミング的思考が必要だから
AIの登場以前に今までRPAやモデルなど、素人でも簡単にプログラムが作れるツールが数多く登場しましたが、そのたびに「これからプログラマーは不要になる!」と持ち上げられるものの、結局のところエンジニア(プログラマー)の需要は減っていません。
それはなぜかと言うとツールによりコードを自動生成することができるようになったものの、結局「〇〇のときは△△をする」「□□のときは××をする」といったプログラミング的思考ができないと、ツールに指示が出せないわけです。
確かにAIは既存のシステムを模倣したコードであれば簡単なプロンプトで出力してくれるかもしれません。しかしエンジニアの仕事はまだ世に出ていない新しいシステムを開発することにあり、新しいシステムのコードを出力してもらうためには的確なプロンプトを入力しなければなりません。的確なプロンプトを入力するためにはしっかりとしたソフト設計が必要であり、プログラミング的思考ができないと設計ができないのです。
そもそもソフト開発において実装にかかる時間はそこまで多くなくて、顧客のニーズをどうシステムに落とし込むか、市場で起きている不具合は何が原因でどこを直せばよいのか、そこを考える時間に9割が費やされているはずです。
よく「AIを使えば1人で5~6人分の仕事が出来てしまう」と言いますが、それはあくまでも的確なプロンプトが用意できればの話であって、5~6人分の仕事ができてしまう場面はあまり想像できません。
言ってみれば「今の車は最高時速100km/hぐらいしか出せず家と職場の往復に1時間かかるけど、今度最高速度200km/hの車が手に入るので半分の時間で通勤できるぜ」と言っているようなものです。お前の通勤経路、200km/hも出せるようなところないだろ、と。
そもそも人手不足であり、永続的に採用を絞ることはできないから
現在ITは深刻な人材不足に陥っており、経済産業省では2030年には約79万人の技術者が不足すると試算されています。
従来は未経験者/初心者(ジュニア層)に任せていた仕事はAIの登場で代替され、一部企業ではジュニア層の採用を絞るようになっているとのことです。
2026年はまさにAI過渡期で、僕自身もAIによりジュニア層の仕事は巻き取られ、一時的にエンジニアの需要は下がると思っています。
しかしそうやって採用を絞ったところで、企業は数年後の人材配置をどうするつもりなのでしょうか? 元々エンジニアは79万人も不足すると言われている中で、一人がAIによって複数人分の仕事をして、ここからさらに効率改善をしてすべてカバーし切るつもりなのでしょうか?
さすがにそれは無理が生じますし、大慌てで人を採用する未来が見えています。
AI推進派と静観派で意見が食い違う理由
特にここ1週間でIT業界におけるAIの向き合い方に対する意見が色々と出て、中には炎上寸前のボヤ騒ぎになる意見もあったかと思いますが、一通り推進派と静観派の意見は出尽くしたように見受けられます。
そこで分かった意見の相違の根本的な原因は「エンジニアリング(プログラミング)に関するスタンスの違い」かなと思います。
冒頭の方でも触れていますが、「動くと思うからリリースしようぜ」で「とりあえず動かすだけ動かして、ダメなら修正すればいい」な業界にいれば多少ミスがあってもAIに出力してもらったコードをそのまま搭載したほうが品質は高まるでしょうし、我々のように組み込みのような「ひとつの些細なミスでも数億単位のリコールが発生する」業界であれば、すべてに対して品質の保証ができていない限りはリリースできないのです。
ここ数日の推進派と静観派のやりとりは以下の通り。
静観派「我々としてもAIは使っていきたいが、品質はどうやって確保しているの?」
推進派「AIは人間がコードを書くよりもよっぽど高品質なアウトプットを出してくるので、それをそのまま実装すればいい」
「いや、AIが人間よりも高品質なコードを書くことは間違いないんだけど、だからといってミスが混入しない保証はないでしょ?」
「テストをやればよい」
「中身のコードが分かってないのにどうやってテストするの? 全部ブラックボックステストでやるの?」
「テスト項目もAIに出力させれば網羅的にテストができる」
「テスト項目に抜け漏れがないことはどうやって保証するの?」
「AIの方が人間よりも詳細かつ抜け漏れのないテスト項目が作成できる。それに人間がやったからと言って抜け漏れがなくなるわけではない」
「それはそうなんだけど、モデルコードのように『こういう指示を出したら必ずこういうコードが出力される』という入力と出力が1対1になってないAIだと、どこでミスが混入するか分からないじゃん」
「我々だって普段PCや家電製品だって中身のメカニズムをすべて把握しているわけではないけど、それを使って生活している。なぜAIだけ厳格な保証を求めるのか」
「いや、それはまだ社会全体として『AIを盲目的に使うほうがいちいち疑うよりも圧倒的にコスパがいい』という合意が取れてないからね。じゃあ自動車業界やFA業界で『AIにやらせるほうが人間にやらせるよりも圧倒的に高品質なので、AIが出力してコードをそのまま実装しました』って言ってレビューが通ると思う?」
「…バーカバーカ。そうやって『万が一△△になったらどうするんだ!』とリスクばかりに目を向けてメリットの方に目を向けないから日本のITはダメなんだ。そんなに言うならいつまでも『品質保証! 品質保証!』って言って手でコード書いてろよ」
「(ダメだこりゃ…)」
------------------------
いやね、AIがある程度の仕事を奪うことは間違いないのですが、それにしても「未経験or微経験ぐらいのエンジニアがやってる簡単な仕事はAIが奪っちゃって、お前路頭に迷うことになっからね」という言い草はあまりにも他者に対するリスペクトがなさすぎるでしょう。それに純粋にどうやってAIで品質保証をするか尋ねてきた人間に対して真っ当な説明もできないからといって最終的に人格否定に走るとはもってのほかです。
僕も自分自身が過去に事務職をやっていた経験から割と事務職に対してネガティブなことを言いますが、事務職が労力の割に評価されづらい構造的欠陥を指摘したり、同じ労力で大きく稼げるエンジニアの仕事を代替案で勧めたりと、「言いっぱなし」にはならないように気をつけています。
我々エンジニアの仕事など虚業みたいなもので、暑い中寒い中外に出て体を使って仕事ができない役立たずがたまたまパソコンというおもちゃで稼げる時代だったからこそ大きい顔ができますが、それこそ戦争でも始まってまともにパソコンが動かせなくなったら我々なんかなーんにもできないですからね。
今自分がこの世界で生きていられるのは自分以外の人間がそれぞれ自分の役目をちゃんと全うして、社会をちゃんと回してくれているからこそなのに、ちょっと自分が時代の最先端っぽい仕事をしているだけでいっちょ前に他人の仕事の是非を語るのはどうなのかと思いました。
