以前からTwitterで話題を呼んでいたショートストーリー集。第一話が無料で読めるので、まずはそれを読んでほしいです。
さて、本書は基本的に一人称形式の独白で話が進められていきます。基本的なフォーマットは以下の通り。
- 閉鎖的な環境で「才能のある自分はここにいるべきではない」と鬱屈する主人公
- 閉鎖的環境をなんとか抜け出し、東京(早稲田/慶應)という街で晴れやかなデビューを飾る
- 一時は上の階層に入れたと思い舞い上がるも、結局はそこに馴染めない
- 元の世界に戻るも、自分はかつて馬鹿にしていた人間たちよりも進歩していないことに気づく
どのお話も30歳前後の男女が東京という街で何者かになろうとして、なれず、夢破れていく様子を「Nujabes」「怪盗ロワイヤル」「スピードラーニング」など時代を感じさせる固有名詞を出しつつ、妙なリアリティをもって描かれます。
★★★★★
本書を読んでいる2時間の間、共感性羞恥心のあまり首をかきむしり、あまりの気恥ずかしさで内側からエイリアンが切り裂いて出てくるんじゃないかと思いました。このショートストーリー集はどれも東京を舞台にしつつも名古屋出身・在住の自分でも思わず共感してしまう描写の連続でした。手を変え品を変え、よくもまぁこんなにも悪意に満ちた話を書けるなと感心するばかりです。
読書中の感覚を端的に表すのであれば「普段は人見知りで、そんな陰キャな自分をなんとか変えようと珍しく陽キャのパーティーに参加するもボッチになってしまい『こんなとこやっぱり来なければよかった』と後悔しているところを第三者にビデオに撮られ、それを見せられている」感覚です。もう地獄。読む拷問ですよ。国連に見つかったら全会一致で避難されるぐらいの非道さです。
本書を読んでひとつ思い出したことがあります。それが正月明けにブログやTwitterで多くアップされる「都会の大学に進学、そして就職してハイソサエティの仲間入りを果たした自分が正月久々に地元に戻ってみたら、あのとき自分をバカにしていたヤンキー達は早くに結婚して子供を生んで、相変わらず同じメンバーで河原でバーベキューをしていて遅れたままだった」というもの。
20代の頃は僕もこういう文章に共感していたのですが30代になった今になると、素直に賛同できないんですよね。当時は「早くに結婚して出産してー」と言っていたものの、結局彼らは社会の一員としてうまくやっていたりする。ではそんな "ハイソサエティに仲間入りした自分" は一体何の実績を残せたというのか? 誰の目から見ても褒めてもらえるような実績は出せたのかというと、何も出せていない。
日常生活を送っていればそういった「答え合わせ」はジリジリと行われていくものですが、本書は読んでいる間それをつるべうちのごとく連打でたたみ込まれます。
読者の心をボコボコにして立ち直れなくするようなひどい本ではあるのですが、読後には不思議な爽快感があるショートストーリー集でした。