書籍

ドライな青春物語『渋谷ではたらく社長の告白』

 サイバーエージェントの代表取締役・藤田晋社長が2005年に書かれた『渋谷ではたらく社長の告白』を読みました。

渋谷ではたらく社長の告白

 この本は非常に不思議な本です。

 自伝でありながらも、自身が親友や恩人を裏切り、非常に荒削りな方法で会社を拡大させてきたことをドライに描写しながらも、ひとつの青春物語として成立させてしまっている。

 僕がまずこの本を読んで思い出したのは2011年の映画『ソーシャル・ネットワーク』です。
 『ソーシャル・ネットワーク』はFacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグを主人公とし、天才である彼が親友を裏切り、人のアイデアを盗用し、恩人を裏切りながらも自社サービスを拡大させていく話。ですが観客は天才・ザッカーバーグに完全に感情移入しているためそういった裏切りや盗用が出てきても「彼らは裏切られるべくして裏切られた」と全く罪悪感を感じないどころか爽快感さえ覚えるという非常に稀有な作品でした。

 『ソーシャル・ネットワーク』の方は本人が監督したわけではないため裏切りや盗用と言った恥部を余すことなく描いていましたが、本書『渋谷ではたらく社長の日記』は自伝です。通常であれば自分のイメージが悪くなるようなことは書きたくないはずなのに、それをすべて正直に書いているのです。
 正直に書くとしても普通であれば「あのとき自分はこういうことを考えていて、あれはやむにやまれぬ事情があったのだ」というエクスキューズのひとつも入れたくなるでしょうが、本書にはそれがない。常に事実が羅列されていて、非常にドライな文体となっています。ドラマがなく、企業にまつわる攻防が次々と描かれ、物語のスピード感が尋常じゃないことになっています。

 そのようなドライな文体で、ドラマがないにもかかわらず、1冊の本として読んだ時に確かに本書はIT企業をめぐるひとつの青春物語として成立させてしまっているところがなんとも不思議なところです。

 また今では日本を代表するIT企業として名が挙がるサイバーエージェントも、起業当時は代表取締役である藤田さんにITの知識が全く無かったところも驚きます。

 元々は敏腕営業マンとして企業で活躍していた藤田さんがITバブルの匂いを感じ取ると、ベンチャー企業でアルバイトをしていた時に培ったハッタリで次々と仕事を取るも、その後は行き当りばったりでなんとかお客さんにシステムを納入していく様も面白かったです。物語前半に登場する渡辺専務からの「『まだ実績はありません』って馬鹿正直に言ってたら、それで事業が立ち上がると思うか? ハッタリでもいいから、とりあえず実績を口に出して言ってしまって、次に会うときまでに本当に実績を作ればいいんだ」という教えが後半に活きてくるのがなんとも言えないところ。

 他の魅力で言えば、僕は堀江貴文さんの『拝金』という同じく1990年代末期からのITバブル時代を描いた半自伝的小説が好きなのですが、まさに『拝金』と時間軸を同じにして堀江さんが本書にも登場しますし、また楽天の三木谷浩史さんや村上ファンドの村上世彰さんも登場するため、色んなメディアを通して知っていたITバブルの点が線としてつながってくるところも興奮しました。

 

 IT業界の人間でなくてもビジネスパーソンであれば誰が読んでも一定の面白さを保証してくれること請け合いの本書。

 興味のある方はぜひ一度読んでみてください。

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