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IT長者の成功と挫折の追体験『拝金』

 「藤田優作、君はどのくらいの金持ちになりたい?」

 「そうだな、金で買えないものはない、そう言えるくらいかな」

 「わかった。それでいこう」

 年収200万円のフリーター・優作はなぞのオッサン・堀井健史と握手を交わした。

拝金

 小説『拝金』はIT起業家である堀江貴文さんが初めて執筆した小説であり、一人の負け組青年が "オッサン" と呼ばれる謎の事業家と出会ったことから瞬く間にIT業界で成り上がっていく姿を描いた半自伝的小説です。

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 先日YouTubeを観ていると、自動再生の関係でたまたま岡田斗司夫さんが堀江さんの著書『我が闘争』について語っている動画が流れてきました。

 

堀江さんの話を聞いたところで久々に『拝金』の事を思い出し、そのまま流れでまた一気に全部読んでしまいました。
 『拝金』を読むのはこれで人生通算30回目ぐらいでしたが、何回読んでもその面白さ、爽快さは変わらない。

 僕はこの小説が本当に好きで、人生で何か行き詰まる度に『拝金』を読み、そして勇気をもらっています。

 いったいなぜ『拝金』は面白いのか。

 いったいなぜ『拝金』は僕を惹きつけてやまないのか。

 今回はその理由について書いてみたいと思います。

 まず『拝金』の面白い点としては、一人の負け組青年がIT業界で成り上がっていく様を追体験できる点にあります。
 本書の主人公である藤田優作は九州の企業城下町の中流家庭に生まれます。それがある日父親が会社からリストラに遭い、そこから段々と家庭は崩壊し、優作は逃げるようにして東京に出てきます。
 しかし東京に出て色々なことに挑戦してみるも全く芽が出ず、今ではしがないフリーターとしてバイトのない日は一日中ゲームセンターに入り浸る日々。

 まずこのキャラ設定が非常に秀逸で、前半ではいかに優作が不遇の日々を送っているかが非常にコンパクトかつ的確に描かれます。

 通常の小説や映画となると、「いかに主人公が不幸な存在か」を描くためにダラダラと文字数や時間を使ってしまいがちなのですが、『拝金』はあくまでも必要最低限でスピーディーに描いてくれます。

 ゲームセンターに偶然やってきた事業家である"オッサン"は、優作に他の者とは違う才能を感じ取り、ビジネスのノウハウを教え込みます。

 初めはビジネスのことを全く分かっていなかった優作に対し、ひとつひとつ丁寧に解説するオッサン。

 そうしているうちに優作はIT業界で瞬く間に成功し、一躍時の人となります。

 初めはその日食べるものにも事欠いていた優作はビジネスで成功し、お金が入るごとに今まで知らなかった世界にどんどん足を踏み入れます。

 例えば料理。
 オッサンに連れて行ってもらった高級料亭で出されたフグは味が全くしない。全くしないが美味しい。フグから色んな要素を削りに削った結果「美味」だけ残した、「無味」という「美味」。
 他にもシャトー・ディケムというワイン。味自体はとてつもなく甘く、まるではちみつとかき氷のシロップを混ぜてグツグツと煮込んだかのようでありながらも山の湧き水のように体に染み渡る清涼感を持っている。

 女性関係もサルと呼ばれる通称 "仕出し屋" に頼めばどんな子でも揃えてくれる。
 最初は女子大生からOL、読モ、グラビア、果てには女子アナまで。自分のランクが上がれば上がるほど遊べる女の子のランクも上がってくる。

 お金が無かった頃は何をするにも制約があったものが、お金が手に入るにつれて自由が広がり、今まで行けなかった世界に行けるようになります。

 我々が普段知りえないような世界を藤田優作の視点から追体験できるのです。

 次に『拝金』が面白いと思える要素は、物語を楽しみながらも同時にビジネスのことも学べる点です。

 オッサンは優作に対し、ビジネスを始めるのであれば次の4つの原則を守るようにと教え込みます。

  1. 元手はかけない
  2. 在庫ゼロ
  3. 定期収入がある
  4. 利益率(が高い)

この4原則をオッサンはこう解説します。

「まず、元手はかけない。店舗を居抜きで借りてカレーショップをやろうとする。賃貸料でゆうに数百万。さらに従業員の人件費なんかを含めると、元手で1000万は必要だ。1杯500円のカレーを2万皿売ってようやく回収できる。借金をすれば金利だってかかる。食材、光熱費などのランニングコストを考えれば、よほど流行らないと利益は出ない。そして、たとえ店が繁盛したとしても、その場所でカレーが売れるとなれば、大手資本が参入し、安売りをかけられて潰されるのがオチさ」

 オッサンが語る4原則に従って優作はどんなビジネスをやればよいか思案します。

 人材は優作自身と、優作と同じアパートに住む専門学生の杉作君の2人のみ。元手は200万。

 優作は公園で鳩にエサをやっているときにとあるビジネスを思いつきますが・・・ それがどんなビジネスかは読んでからのお楽しみ。きっと「4原則に従ったビジネスだとその手があったか!」と思うことでしょう。

 その後優作のビジネスが軌道に乗ってからもオッサンはノウハウを教え続けます。

 この世の中には利益逓減(テイゲン)という経済法則があって、最初はどんなに儲かる商売であっても必ず利益率は下がっていくという法則です。
 例えば以前は1時間600円ぐらいしていた漫画喫茶も、今では色んな企業が参入して価格合戦が行われた結果、ドリンクバーやシャワーを浴れるようになったのにもかかわらず1時間300円まで値下がりしています。だから儲かるビジネスをやろうと思ったら必ず他社が参入しにくいビジネスを選ばなければならない。

 こういったお金やビジネスの基本的なノウハウがぎっちりと詰め込まれているおかげで、普通にサクセスストーリーを楽しむと同時に勉強もできてしまうのです。

 最後にこの小説が面白いと感じる要因として「ライブドア事件の裏では一体何が行われていたのか」ということが分かる、ドキュメンタリー要素も兼ね備えている点が挙げられます。

 堀江さんが粉飾決算を行った(とされる)、通称ライブドア事件が起きた頃、僕はまだ中学生で、当時は堀江さんが一体何をして捕まったのかがよく分かっていませんでした。
 また捕まる以前に堀江さんがプロ野球球団の買収や選挙への出馬、フジテレビ買収など次々と「今までの古い体制を打ち破る」アクションを起こし、時代の寵児として持て囃されていたときも僕は子供ながらに「報道では堀江さんの革新性を盛んに報じるけど、一体何が革新的なんだ?」と疑問に思っていました。

 この『拝金』は堀江さんの自伝的な側面があり、物語の中で球団やテレビ局の買収など、実際にあのライブドア事件の直前に起きた出来事が虚実入り乱れ登場します。(もちろんあのライブドア事件も出てきます)

 そうするとこの物語を読んでいる僕としては主人公の優作に完全に感情移入していますので、事件の当事者としてあの出来事を体感できるのです。
 この体験により僕の長年の疑問が一気に解決し、また新たな爽快感が生まれました。

 この本の面白さについて考えていく中で一つわかったことがあります。

 それは、『拝金』はサクセスストーリーとビジネス書とノンフィクションの3つの要素が1つのお話の中に非常にうまく収められている小説だということです。
 それゆえ何度読んでも発見がある。

 またもう一つ、これは重要な要素なのですが、『拝金』は僕たちの欲望を素直に肯定し、更に高みを目指すように導いてくれます。
 僕たちはお金儲けが大好きなはずなのに、普段人前で喋るときには「お金にそこまで執着はない」というような真逆なことを言ってしまいます。
 男ならば大きく金を稼ぎたいし、いい女を抱いて、いい車に乗って、最高級の料理を食べたいと思っているはずです。でもそれは世間的には受けが悪いから心の奥底にしまっている。
 しかしこの小説『拝金』は、そんな心の奥底で抑圧していた素直な気持ちを表に出してくれます。

 だからこそこの小説は何度読んでも爽快なのです。

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