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悩みに対する考え方『オタクの息子に悩んでます』レビュー

 自分は些細なことでもすぐに悩んでしまう。

 常に何か悩み事を抱えて「自分はなんと暗い人生を送っているのだろう」と重い気持ちになりながら、藁をもすがる気持ちで他人に相談をしてみる。するとスパッと解決方法を提示され、意外と自分の悩みは大したことがないと分かり一旦納得したりする。
 でも数日後には自分の中でまた沸々と暗い気持ちが湧き上がってきて「やっぱり私の人生はお先真っ暗だ!」なんて思ってしまう。

 そういうことってみなさんもありませんか?

 本書『オタクの息子に悩んでいます』は、自分や他人が抱える悩みに向かい合う方法を、極めて論理的かつ再現性高く解説した「お悩み相談・知的格闘エンターテイメント」本になります。

本書はこんな人にオススメ

・悩み事を人に相談してもイマイチ心がスッキリしない

・他人の悩み事に的確に回答を出したい

 

岡田斗司夫と「悩みのるつぼ」

 岡田斗司夫さんはかつて「オタキング」の呼び名でオタク文化評論家として各メディアで活動され、現在ではYouTubeとオンライサロンに活動の軸を置いています。

 本書は朝日新聞で毎週掲載されている「悩みのるつぼ」と呼ばれる読者からのお悩み回答コーナーで岡田斗司夫さんが担当された回を集め、それを岡田斗司夫本人が「どういう思考プロセスを経て、この回答に至ったか」を解説したものになります。

 

壮絶、シングルマザー

 さて、岡田さんの思考プロセスを解説する前に、まずは読者から寄せられたお悩みを見てみましょう。

 みなさんだったらこれにどう回答しますか?

『壮絶、シングルマザー』

 私は27歳で、7歳の男の子がいるシングルマザーです。

 中絶する予定の前日に実家から逃げ、一人で子供を産み育ててきました。息子は元気で明るく、家事を手伝ってくれます。ただ勉強を見てあげられず、勉強嫌いになりました。

 私は昼夜働いていますが、それは子供とずっと一緒にいることが怖いからです。私がハイハイの時に両親が離婚、3歳の時に新しい母親が来て虐待され続けました。虐待された子は虐待する可能性があるって聞いて怖いんです。

 高校卒業後、寮付きの派遣の会社に入りましたが、休日に皆で遊びに出かけた帰り、上司に唇にキスされたショックで退職。夜の仕事が本業になり、じきにお客さんの子供ができました。
 私に結婚する気が全く無く、認知もしてもらいませんでした。でも子供が3カ月の時、私が入院している間に彼は浮気して、私の貯金を全部持って失踪(しっそう)しました。縁が切れて良かったと思います。

 子供には父親は交通事故で死んだ、と言っています。いまは愛人のような形で生活を助けてくれる相手がいますが、マンションのローンをちゃんと払っておらず、あと3カ月で出ていかなければならなくなりました。
 遺産問題でもめて、ずっと連絡しなかった両親に「助けてほしい」と頼んだら、「自分の責任」と。
 その通りですが、どうすればいいのかわかりません。

 

岡田斗司夫の悩みに対処する思考プロセス

logic

不幸の連続技

 正直な話、最初は「こりゃ僕にはムリだ。こんな深刻な悩みには答えられないよ!」と思いました。

 <<いまは愛人のような形で生活を助けてくれる相手がいますが>>

 もうここ読んだだけで、すごいなと思っちゃったんですよね。

 <<マンションのローンもちゃんと払っておらず、あと3ヶ月で出ていかなければならなくなりました。遺産問題でもめて、ずっと連絡しなかった両親に「助けてほしい」と頼んだら、「自分の責任」と。そのとおりですが、どうすればいいのか分かりません>>

 ここまで重たくしんどいの、どう答えれば良いんだ。

 結論から言うと、僕も『悩みのるつぼ』にはまり込んでいた。

 複数の問題を同時に処理しようとして僕自身が "不幸の連続技" に負けていたんです。

 

解決可能な問題を仕分ける

 冷静に考えれば、これ全然むずかしい問題じゃなかった。

 あんがい簡単なんです。相談文の中で "解決可能な問題" はどれだろうかと仕分けしてみれば、すぐ分かります。

 深い悩みに落ち込んだ場合や、「もうどうしようもない」というジレンマに陥ってしまった場合、僕はいつも悩みを3つに分けます。

1.今すぐ「私が」手を打たなければならない問題

2.年内に「私か誰かが」手を打たなければならない問題

3.「人類が」いずれ解決せねばならない問題

 

問題にマーカーで色分けして分解する

 さて、相談文に戻ります。

 僕は、具体的にこの人の問題にマーカーで本当に色を付けて分解してみました。

 私は27歳で、7歳の男の子がいるシングルマザーです。

 中絶する予定の前日に実家から逃げー

 これ、実は今回の悩みと関係ありません。

 一人で子供を産み育ててきました。息子は元気で明るく、家事を手伝ってくれます。ただ勉強を見てあげられず、勉強嫌いになりました。

 はい、偉いですね。でもこれも今は関係ない。

 息子は元気で明るく、家事を手伝ってくれます。ただ勉強を見てあげられず、勉強嫌いになりました。

  これも関係ないですね。

 私は昼夜働いていますが、それは子供とずっと一緒にいることが怖いからです。

 昼夜働いている。母親業を逃げている、と自分で書いている。問題があるような気がするんですけども、でも、家事を手伝ってくれる息子に育ったんだから、実は問題ない。これも忘れて大丈夫。

 私がハイハイの時に両親が離婚、3歳の時に新しい母親が来て虐待され続けました。虐待された子は虐待する可能性があるって聞いて怖いんです。

 トラウマ登場です。

 でも、これも実は「今、この人が悩むべき問題」ではないから外して大丈夫。

 

 冒頭部にズラズラと書いている彼女の問題は、このように仕分けしてみると実は「今すぐ考えるべき問題」ではない、というのが分かりました。

 「私ってこんなにつらい人間なんです」ということを訴えるための言葉なのです。

 高校卒業後、寮付きの派遣の会社に入りましたが、休日に皆で遊びに出かけた帰り、上司に唇にキスされたショックで退職。

 これも関係ない。

 上司に唇にキスされたショックで退職したことは、「今さら」どうしようもないからです。
 過去に起こって取り返しがつかないことは、これも問題外としてこれ以上は考えなくていいからカット。

夜の仕事が本業になり、じきにお客さんの子供ができました。

 これもいろいろ言いたいことはあるけども、今の彼女には関係ないからカット。

私に結婚する気が全く無く、認知もしてもらいませんでした。でも子供が3カ月の時、私が入院している間に彼は浮気して、私の貯金を全部持って失踪(しっそう)しました。縁が切れて良かったと思います。

 良かったんだから、これも悩みと関係ないからカットですね。

 

 こうやって不要な問題を削除してみると、編集者が「壮絶、シングルマザー」と書いた彼女の悩みというのは、実は「終わったこと」とか「関係ないこと」とか、「今さらどうしようもないこと」でほとんどが構成されているんです。

 じゃ、問題は何か。

子供には父親は交通事故で死んだ、と言っています。

 今のところはそれで充分でしょう。

いまは愛人のような形で生活を助けてくれる相手がいますがー

 え~と、それ、問題かもわかんないけど、とりあえず今は良し!

マンションのローンをちゃんと払っておらず、あと3カ月で出ていかなければならなくなりました。

 ・・・え?

 ちょ~っと待ってください。

 ここ、ここです!

 ていうか、問題はここだけでしょ?

遺産問題でもめて、ずっと連絡しなかった両親に「助けてほしい」と頼んだら、「自分の責任」と。

 ダメと言われたわけですね。ふむ、じゃあやっぱりここだけです。

 彼女がフォーカスを合わせるべき問題は何か。

 「マンションをもうすぐ追い出される=新しい住居を見つける」

 ここだけを考えるべきなんです。

 

人が抱えられる問題には重量制限がある

 人間の解決能力とか思考能力には限度があります。

 それなのに、この相談者は物を考えるときに「もともと私にはこんなトラウマがあって、こんな過去があって、こんなつらいことがあって」・・・と問題を乗せてるんです。その結果、身動きが取れなくなってるだけなんですよね。

 でも、問題点をあぶり出しちゃうと実は単純でした。

 悩んでいる最中は、まずひたすら分解しましょう。そして解決可能な悩みだけにフォーカスを合わせる。「何ができるのか」という可能点を見つけるわけです。

 

岡田斗司夫の回答

 悩みとは「複数の問題で、頭の中が散らかった状態」を言います。
 部屋の中が散らかっていて、どこから片付けていいかわかんない。そんな時必要な行動は「整理するために、いま必要ないものは捨てる」です。

 相談は五つの段落に分かれています。
 実際に紙面を色鉛筆などで囲んで、それぞれの段落を区分けしてください。

 では整理、部屋のお片付けです。悩むのは後回し。

 第一段落は自己紹介。今の問題には関係ないので捨てます。

 第二段落の問題は「七才の息子が勉強嫌いで、育児に自信がない」です。それ以外の部分は捨ててかまいません。
 あなたは虐待されて育てられた。でも子供が七歳になる今まで虐待してないんですよ。元気で親思いの良い子に育てられたのです。自信を持って大丈夫。
 勉強嫌いの原因は、あなたが勉強をみてあげられなかったせいとは限りません。ゲームやTVの方が絶対に面白いし、たいていの七歳児は勉強嫌いです。

 第三段落と第五段落は「すでに起きてしまった、どうにもならないこと」です。いずれ余裕ができたら考えることにして、とりあえず捨てましょう。

 第四段落の問題は「住む家がなくなる」です。
 これこそ、あなた自身が動かないとどうしようもない「具体的な問題」。途方に暮れている場合ではありません。住む場所を探しましょう。

 まず不動産情報、夜仕事が終わってからでも、ネットなら調べられますよ。保証人については、今の愛人は頼りになるのか、もう一度吟味しましょう。

 なによりも、ぜひ役所の福祉課で相談してください。地域によって違いますが、母子家庭に対する様々な支援が用意されているはずです。母子アパートに入れる場合もあるし、都営住宅の抽選なども有利になります。補助が出る場合もあります。

 収入を増やす努力もするべきです。水商売は今でも続けておられるのでしょうか?
 まだ20代ですから、当分がんばれますよね。しっかり働いて収入を増やし、子供と自分の将来のために貯金もしてみましょう。

 深い悩みへの対処法は「解決可能な問題しか考えない」です。
 いま、あなたが考えるべきは「自分の稼ぎで住める場所を探す」だけのはず。
 前だけをしっかり向いて、頑張ってください。

 

 以上が「壮絶、シングルマザー」編の回答プロセスになります。

 本書では読者から寄せられた悩みが20以上あり、その中でも回答プロセスが一番鮮やかだったシングルマザー編を取り上げました。今回は問題解決の手法としては「仕分け」「フォーカス」というメソッドが出てきましたが、他の回ではもっとたくさんの手法が登場します。

 シングルマザー編を見ていて分かるように、悩み事って問題の本質を紐解いていくと、本当に対処しなくてはいけないことって驚くほど少ないんですよね。

 自分には悩み事が多いと日々頭を抱えている方はぜひ本書を読んでお悩み解決メソッドを身に着け、次の日から晴れやかな気持ちで毎日の生活を送ってほしいと思います。

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