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映画

丁寧な演出と既視感『ドールハウス』

 『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』、近年では『ダンスウィズミー』で知られる矢口史靖監督の最新作、『ドールハウス』を観てまいりました。

 以前から映画館の予告で頻繁に流れており存在は知っていましたが、矢口監督好きの友人に連れられ公開2日目に劇場に。普段邦画は観ない上にホラーとなるとまず行くことはないのですが、これはこれで良い経験になりました。

 自分自身矢口監督作品はキャリア初期の『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』しか観ていません。自分の印象と矢口監督作品をすべて観ている友人の話を総合すると、矢口監督は設定の妙と緻密なディティールで映画を魅せるタイプで、突飛な演出はあまりしない印象です。

 それこそ『ウォーターボーイズ』は「男子なのにシンクロ」、『スウィングガールズ』は「田舎の女子高生が『ジャズやるべ』」。設定は凝っているものの、話の展開自体は王道も王道で、細かいジャブとして笑えるシーンを的確に入れてくるものの、演出があまりにも丁寧すぎるので「あのシーンが良かった」ということはあまりなさそうです。なので予告編を観ても「面白そうな映画がやってるな~」ぐらいにしか思わず、そこまで劇場に行ってまで観てみたいとは思えないのです。

 事実矢口監督は知名度の割に興行成績が奮っておらず、自身のフィルモグラフィーの中でも最高の興行収入が『スウィングガールズ』の21億円。他の作品は10億円にすら届いていません。そして『ドールハウス』のひとつ前の作品である『ダンスウィズミー』に至っては2.7億円です。

★★★★★

 さて、本作『ドールハウス』の感想ですが、先に点数を言っておくと70点です。
 誰が観ても一定のラインは超えるし、気軽にホラーを観たい人からするとちょうどよい作品です。脚本の構成が秀逸で、丁寧な伏線の設定とその回収が心地よく、本当によく考えられた映画です。この作品にハマるハマらないはあると思いますが、一方的に酷評する人はいないでしょう。

 僕は本作を観る前にストーリーを勘違いしていて、我が子を失った長澤まさみが代わりに人形に取り憑かれてしまう様子を描いたサイコスリラーだと思っていたのですが、その人形から実害を及ぼされる直球のホラー映画だったのですね。勝手に勘違いしていたものの、思っていたものと異なるストーリー展開でなかなか楽しめました。

 ホラーとしてしっかり怖いシーンもあって、とあるシーンでは観客席から(特に若い女性)から悲鳴が上がるほどです。物理的に怖いシーンだけでなく生理的に"いやーな気分"になるシーンもあって、そのときは劇場がどよーんと重くなったのを感じました。公開二日目でお客さんも多く、比較的若い観客層だったので劇場に一体感があったのが良かったですね。

 演出もしっかりしていて、役者の演技も終始一貫していました。特に長澤まさみの肌をちゃんと汚くして、年相応の「ちょっと美人な主婦」ぐらいに描いていたのがとても良かったです。僕はドラマ『プロポーズ大作戦』が好きなこともあって昔から長澤まさみ(&榮倉奈々)がお気に入りなのですが、近年彼女の美しさがあまりにも行き過ぎていると言うか、迫力が出すぎてしまってちょっと応援できなくなっていたんですよね。

 2022年のドラマ『エルピス』に主演したときなど迫力と美貌がピークに来ていて「こんな美人おらんやろ」と親近感がゼロになっていたのですが、本作『ドールハウス』ではちゃんと肌は汚くするし、ライティングでも顔に影を作るし、現実感があるキャラ作りをしていました。ハリウッドの作品はちゃんと女優さんを汚くするのですが、日本だと事務所の力が強すぎるのか、シワもくすみも目立たないようにライトをベターっと当てちゃうんですよね。

 とはいえ、脚本の構成の素晴らしさには舌を巻くものの、展開や演出は常にどこかで観たことがあるようなものの連続です。

 人形が人間に襲いかかるというコンセプトは『チャイルド・プレイ』から始まりいくらでもあるし、凶暴化した人形の造形は『エクソシスト』。人形に精神を追い詰められていく様子や、録画してテープの音量を上げてみると意外な真実に気づく展開は『シックス・センス』。夢と現実が交錯していく様子は『パーフェクトブルー』。そしてラストの展開はまんま『リング』でした。

 過去の名作映画を研究して、ちゃんと伏線を張りつつ、破綻なく自分の作品に落とし込んでいる手腕は見事なのですが、結局どれもどこかでみた演出なのでフレッシュさがないんですよね。

 またホラー作品でありながらも、役者のテンションが結局いつもの矢口節なので、どこか軽妙な雰囲気が漂ってしまっています。特に安田顕、今野浩喜、田中哲司が出てくる場面は完全にコメディ調になるので、直前までゴリゴリにホラー演出をしているのに、彼らが出てくるところだけ「再撮影でもして無理やりねじ込んだのか?」と思えるほどにテンションの連続性がありません。役者自体は終始同じテンションで演技をしているので、矢口監督自体はしっかりと意図して演技指導をしているようですが、どうもそれがうまくいってないんですよね。

★★★★★

 今まで映画をそこまで観てきていない人からすると素直に楽しめる映画だと思います。悲鳴が上がるほどに怖いシーンはあるものの、直接的なグロテスク描写があったりだとか、人が死ぬシーンはほとんどないので、安心して観ていられます。

 ただ散々映画を観てきた人からするとどこかで既視感のあるシーンの連続なので、あまり楽しめないのかなぁ、と。

 そういった意味では映画を多く観るということはあまり幸せなことじゃないんだなと思った本作『ドールハウス』でした。



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