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AmazonPrime 映画

主人公の不在と、監督の思想が共感できない『チャッピー』

 AmazonPrimeで『チャッピー』を観ました。

※今回の作品はAmazonプライム会員であれば無料で視聴可能です。→AmazonPrimeビデオ

上映時間

 120分

 

オススメ度

 星5点満点中:★

 

ストーリー

 2016年、南アフリカ。ディオン(デヴ・パテル)は、世界初の自身で感じ、考え、成長することができる人工知能搭載ロボットのチャッピーを開発する。しかし、世界でも有数の危険地帯ヨハネスブルクに巣食うストリートギャングにチャッピーと一緒に誘拐されてしまう。起動したばかりで子供のように純粋なチャッピーは、ストリートギャングのメンバーたちと接し、彼らから生き抜くためのスキルを学んでいく。圧倒的スピードでさまざまな知識を吸収していくものの、バッテリー残量が5日分しかなく……。<Yahoo!映画>

 

感想

 2009年に若干29歳で監督した『第9地区』にて華々しくデビューした映画監督、ニール・ブロムカンプ。
 『第9地区』はCGを多用し、ふんだんにアクションを盛り込んだにもかかわらず、予算はわずか3000万ドルで制作され*1、インディーズ映画にもかかわらず全米で公開されるやいなや初登場1位を獲得し、また南アフリカで行われていたアパルトヘイトをSFアクション映画に置き換えて表現するという深みのあるシナリオ構成からアカデミー賞にもノミネートされました。

 さてこの『第9地区』ですが、僕はこの作品を学生時代に劇場で鑑賞しており、そのストーリーやアクション表現に大変感銘を受けており、監督のニール・ブロムカンプには注目しておりました。

 注目している傍ら、本格的なデビュー作となった『第9地区』はストーリー上、深みはあるものの粗もそれなりに目立つ作品で、とはいえ若干29歳で監督しているわけですから多少の抜けは仕方ないですし、今後メジャー作品を撮っていく上で優秀な脚本家がつけばもっといい作品を生み出せる監督になるのではと思っていました。

 『第9地区』公開から数年後、今度はハリウッドのメジャースタジオで監督することが決まり、2013年にマット・デイモン主演で『エリジウム』が公開されました。こちらについても当然、公開されるやいなや劇場に駆けつけて鑑賞したわけですが、『エリジウム』に関しては正直「やや退屈」という印象を受けました。

 近未来を舞台に富裕層は「エリジウム」と呼ばれるスペースコロニーで何不自由ない生活を送り、貧困層は地球で劣悪な環境のもと暮らすという設定自体は我々が住む現代社会に通じる部分が多分にありますが、その設定がちゃんと最後までストーリー上うまく機能しているかというとかなり疑問でした。
 とはいえスケール感を感じさせるエリジウムの様子や、登場するSFガジェットの数々には舌を巻き、ヴィジュアル面に関しては「やはりブロムカンプ監督はすごいな」と思わざるを得ませんでした。初めてのハリウッドメジャー作品ということで、スポンサーやスタジオの役員に振り回されてうまく脚本が練れないということはインディーズ出身監督にはよくあることなので、その点の反省を踏まえた次回作に期待していました。

 さて、そんな背景があるブロムカンプ監督の期待の3作目ですが、率直な感想はと言うと「期待はずれ」でした。
 その原因は大きく分けて2つあります。

  • ストーリー上の主人公の不在
  • 監督自身の思想に共感できなかったから

 です。

 

映画には必ず感情移入できる主人公が必要

 普段我々が映画を観る時は、必ず主人公に対して「感情移入」しながら物語を体感します。

 主人公に感情移入して、気持ちが主人公と一体になっているからこそ、映画の中で起こる出来事に対して怒ったり、笑ったり、泣いたり、喜んだり出来るのです。

 例えばその主人公が「遠い遠い過去の世界で、銀河の平和を取り戻さんとする農家出身の青年」であったり、はたまた「宇宙人を保護したいじめられっ子の少年」であったり、「人間が寝静まったあとに動き回るおもちゃ」など、自分とは年齢も人種も生き物としての分類が違っても、必ずその物語の主人公に感情移入して、その主人公になりきります。
 裏を返すと、映画とは「自分とは違う人間になりきって、その人の人生を追体験するもの」なのです。

 

主人公不在の『チャッピー』

 そんな中で本作『チャッピー』には主人公格の人間が3人出てきます。

 1人目はAIロボット・チャッピーの創造主であるディオン。2人目は7日以内に借金を返さないと命を狙われることになるギャングのニンジャ。3人目はAIロボットのチャッピー自身。

 この3人が主人公格として、映画の中で話を進めていくわけですが、これが困ったことに誰に感情移入していいか分からないのです。

 例えば1人目のAIロボットの創造主であるディオンは長年AIロボットを作ることを夢とし、どさくさ紛れにチャッピーを作るわけですが、序盤それなりの時間をかけてディオンのことを追っていたため「この映画の主人公はディオンなんだな」と思っていると中盤からはフェードアウト。
 2人目のニンジャに関しては中盤からメインで話が進行していくわけですが、彼に関してはギャング団として銀行強盗など悪事を働くため、非常に感情移入しづらい。キャラクターとしてはヴィジュアルも面白いし、脇役として配置されているのであればいい味が出るのですが、主人公格として描かれると彼に感情移入はかなりしにくいのです。
 3人目のチャッピーについても、AIとして段々と自我を手に入れていくのですが、ギャングであるニンジャから悪事を仕込まれてどんどん悪い人格になっていくために、どうにも応援しづらい。それに加えてあのメカメカしい見た目が僕個人としては好きになれないんですよね・・・

 

映画に必要な「目標」の存在

 先程映画には必ず感情移入できる主人公が必要と言いましたが、それと同時に「映画全体として果たすべき目標」が必要です。

 例えば『スター・ウォーズ』であれば「ダースベイダーを倒して銀河の平和を取り戻す」ですし、『E・T』であれば「宇宙人を悪い人間の手から守る(もしくは宇宙人を宇宙に返す)」というもの。

 面白い映画というのは必ず映画全体として達成したい目標があり、目標がない映画は観ていても「これは今いったい何をやっているんだろう・・・」と不安になり、物語にのめり込めなくなってしまうのです。

 

いびつな人物構成の『チャッピー』

 そういった「目標」という観点から見ても『チャッピー』なかなかいびつな構成となっています。

 チャッピーの創造主であるディオンも「AIロボットを完成させる」という目標については物語序盤で達成してしまいますし、その後の「チャッピーを守る」という目標は「AIロボットを作る」というものに比べてだいぶ弱い。
 悪事をはたらくためにチャッピーを利用しようとし、チャッピーを強奪したギャングであるニンジャに関しても、「期限内に借金を返さないと命を狙われる」という映画としてそれだけで1本成立しそうな目標をもっているものの、そもそものキャラクターが主人公としては感情移入しにくいものとなっているため、物語を引っ張っていく要素になっていない。同様にチャッピーも自身のバッテリーがあと5日で切れてしまうからなんとかしないといけないという目標を持ってはいるものの、やはりチャッピー自身に感情移入できるような話の作りになっていないため、やはり映画全体を引っ張るには弱い。

 そして話の展開としても、普通に観ていると「この映画は人の言うことを何でも学習してしまうチャッピーの姿を通じて『いい人間になるか悪い人間になるかは周りの環境次第』みたいなことを伝えたいのかな?」と思えてくるのですが、途中からそういう話ではなくなり、今度は「ならロボットとの交流を通じて父性や母性を気づかぬうちに獲得し、人間として成長してく話なのかな?」と思えば、そういうラストでもないため、「いや、もう、どうでもええわこの映画・・・」となってしまうのです。

 

機械(マシン)にしか興味が無いことが露呈したブロムカンプ

 この映画での問題点として「主人公の不在」以外にもう一つ挙げられる「監督の思想」ですが、僕はこの映画のラストで露呈するプロムガンプの思想に全く共感できなかったのです。

 ネタバレを避けるため詳細な内容については言及しませんが、この映画のラストを観るとプロムガンプはどうも「人間よりも機械の方が優れている」と考えているとしか思えないのです。

 『第9地区』の時代から、SFガジェット描写については入念に描いているのに、人間については掘り下げが浅いことは気になっていましたが、僕はそれについては「本当は人間ドラマも深く描きたいけれども、現在の力量がそれに追いついていないだけ」と思っていました。

 しかしこの映画のラストを観ているとそれはどうやら間違っていたようで、ブロムガンプはそもそも人間の方にはそんなに興味が無いようなのですね。

 やはり僕は機械よりも人間の方が優れていると思いますし、そうであって欲しい。それでいて映画を観る時はそういうストーリーであって欲しい。

 

何も解決しないラスト

 これもまた『第9地区』時代から気になっていたことなのですが、ブロムカンプ監督の作品はラストでその映画の物語が抱える問題がほとんど解決しないのです。

 ネタバレを避けるためにはっきりとは言いませんが『第9地区』もラストは「いや、いい感じに物語を締めてるけど、主人公どうなっちゃうのよ? それに家族も今まで通り平穏な生活は送れないだろ」と思いますし、次作『エリジウム』も「マット・デイモンはとある選択をすることで感動的な感じになってるけど、最後にしたあの行動、ほんとにうまくいくと思う? 多分すぐまた元に戻るだけだと思うよ?」としか感じませんでした。

 そしてこの『チャッピー』に関しても、混乱に陥った街はどうなるの? 悪役のヒュー・ジャックマンはお咎め無し? チャッピーもディオンもニンジャもこれからどうやって生きていくの? など疑問が山積みです。

 映画として何一つ目標も問題も解決されないため、スカッとする部分がなく、観終わっても満足できないのです。

 

 

 以上が映画『チャッピー』を観てのレビューでした。

 冒頭でも書いたとおり、監督のニール・ブロムカンプには期待していたのですが、本作はなかなか厳しい評価となりました。
 『第9地区』『エリジウム』そして本作『チャッピー』で順調に興行収入を落としていっているので、いま一度、自分の映画はどんな部分が足りていないのかを確認して、次作こそは素晴らしい作品を作って欲しいです。(SF描写については完璧だから!)

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