近年、若年層における男女の出会いのキッカケはマッチングアプリが第一位となったそうだ。
今までは仕事関係や学生時代からの知り合いといった、同じコミュニティから関係が発展するのが圧倒的多数だったが、インターネットを通じてお互い全く接点がないところから恋愛関係になるあたり、ひとつの時代の転換期となっている。
かくいう僕は20代中盤に街コンやらマッチングアプリに精を出していたこともあり、こういった男女の出会いの場におけるプロフィール作成が得意なのだ。今まで身の回りで10人以上のプロフィール作成を手伝い、その内男2人、女2人を結婚まで導いている。(ちなみに当の僕は未だに独身だ。酒もタバコもやらないし、金遣いが荒いというわけでもない。一体何が悪いというのか。まぁ結婚できないということは何かが悪いんでしょうね…)
中でも直近でマッチングアプリのコンサルをやり、最近結婚した子がいる。愛知県でもトップクラスの2000いいねを稼がせ、見事自分好みのハイスペを一本釣りさせた。
今日はそのお話について書こうと思います。
大学を卒業してからも定期的に会う同期の友達の中に、笑い方が指原莉乃に似てる女の子(以下、莉乃)※1がいる。非常に面白い子なのだが男勝りな性格がダメなのか、ほろ酔い程度で止めとけばいいのに毎回泥酔するまでお酒を飲んでしまうのがダメなのか、なかなか彼氏ができなかった。※1.似てるのはあくまでも笑い方のみ
見かねた僕は一時期自分もやり込んできたマッチングアプリを勧めた。写真も撮って自己紹介文も書いてあげて、おおまかなやり取りの流れも教えて、いざスタート。莉乃に関しては手数の問題で、この手の女の子を好きな男はいると確信していたのですぐに彼氏も出来るだろうと踏んでいた。アプリを開始して2ヶ月で4~5人と会ったみたいだが、そのうちの一人と付き合うことになり、あれよあれよという間に結婚することになった。そして結婚が決まったということで報告も兼ねて一度お茶でもしようという話になった。これがコロナ禍に入った直後のお話。
いつものカフェで待ち合わせをすると、向こうは先に店内にいるとのこと。慌てて入店してみると、莉乃はそこにいた。そしてその隣には無愛想気味ではあるものの、上原多香子に似たスラッとした美人が座っていた。(以下、多香子)
僕「おつおつ~。………こちらの美人は?」
莉乃「うちの会社の後輩。ほら、私が前々からあんたに『マッチングアプリのやり方教えてあげて』って言ってた子だって。あんた教えるの嫌がってたからもう連れてきちゃったわ」
多香子「…初めまして」
僕「いや、美人連れてくる分にはいいんだけどさ。そういうところがガサツなんだよな~。まぁいいや。とりあえず結婚おめでとう。追いコンでハイボール10杯飲んで泣きながらゲロ吐いてたお前が遂に結婚とは感慨深いな~」
莉乃「夏合宿でハミ出してご開陳したまんま10分も気づかないあんたのほうがガサツでしょ。そんなんだから結婚できないんだぞ」
この「追いコンでハイボール10杯」と「夏合宿でハミ出して」というのはお互い会ったときの恒例のやりとり。僕と莉乃は同じサークルで、莉乃は追いコンでテンションが高まりハイボールを10杯も飲んでしまい、最後周りに感謝の挨拶をしつつ泣きながら嘔吐するという事件を起こす。僕は僕で夏合宿で海に行った際、水着を忘れたのでパジャマとして持ってきていたブカブカのハーフパンツを代わりに履いていたのだけれども、浜辺で体操座りをしていたときに周りが明るいこともあってパンツの横から見えてはいけないものを見せてしまう。
恒例のやり取りを終え、一通りお互いの近況報告をしたあと本題の多香子の話に入った。多香子は以前街コンで彼氏を見つけるものの、すぐに別れてしまう。そこから莉乃がマッチングアプリを始め瞬く間に結婚を決める姿を見て自分もアプリを始めるが、やはりこちらでもうまくいかなかったとのこと。コロナ禍に入り本格的に出会いもなくなり焦りを感じていたところ、莉乃に相談すると僕にコンサルしてもらってうまくいったとのことから、自分にも同じようにコンサルしてほしいという話だった。前々から「相談に乗ってあげてほしい子がいるの」とは莉乃から聞いていたが僕はあまり気乗りせず、毎回断っていたのだ。
僕「まぁ今回こうやって来てもらったわけだから。とりあえず話は聞きましょう。でもその前に今もアプリやってる? やってるならプロフィール画面見せてくれない?」
多香子「やってます。(プロフ画面を出して)どうぞ」
僕は多香子のプロフ画面を見た。多香子の自己紹介文は以下の通り。
はじめまして!
プロフィール読んでいただきありがとうございます!愛知県で会社員をやっていて、現在26歳です。
旅行やディズニー、その他楽しいことが大好きです!
アプリは不慣れで、自己紹介文も何を書いてよいか分からないのでメッセージの中でいろいろ聞いてください。
よろしくお願いします。
写真も顔が分かるんだか分からないんだかハッキリしない写真が2枚ほど載っているのと、それとは別に8枚ほど今まで友達と行ったであろう高級な料理の写真が並んでいた。
これはなかなか厳しい戦いになりそうだ。
僕「…多香子ちゃんさ、前の彼氏とはすぐ別れたって言ってたけど、その元カレ、浮気してたか既婚者だったんじゃないの?」
多香子「なんで分かるんですか!!?? 街コンの人は浮気でしたけど、前のアプリの人は既婚者の疑いがあったって感じで…」
僕「平日しか会ってくれなかったってやつ?」
多香子「そうです!! でも既婚者かどうかは確定してなくて… あくまで疑いなんですけど……」
平日しか会えないなら既婚者に決まってんじゃね―か…
僕「相手の家には行ったことあるの?」
多香子「ないです。でもこれは私も自分の家には上げたこと無いんで」
相手の家にも行ったことなければ自分の家にも上げたこと無いって、それほんとに付き合ってたのか…
僕「はい、分かりました。あと多香子ちゃんさ、相手が自分のこと好きだと分かると途端に冷めちゃうタイプでしょ?」
多香子「なんでそんなことまで分かるんですか!?」
僕「いや、態度見てたら分かるよ。自分でもあんま言いたくないけど、俺って別にカッコよくないじゃん。今回は莉乃を通じて会ったけど、もし俺らがヒラ場で出会ってたら多香子ちゃん多分俺の事相手にしてなかったと思うのね。で、実際一番最初は冷たかったし。でも俺が莉乃のことを『お前』呼ばわりしたら目の色が変わったのよ。多分『この人は女性と"お前"呼ばわりできる関係を築ける人なんだ』って感心したはずなの。説明すると長くなるから省略するけど、俺は多香子ちゃんって女の本能が強い人なんだって思った」
多香子「私、そんなに目の色変わってましたか…?」
僕「変わってた。それでね、相談に乗るというかコンサルしてあげたいのは山々だけど、恋愛コンサルって基本的にお互いいいことないのよ。だって今まで自分が本能的に心地いいなって思う選択をしてきた結果、どうしてもチャラ男を引き当てちゃうわけでしょ。だからコンサルするとなると、普段の自分なら絶対にやらないことをやらないとダメなのよ。それが普通の人に出来るかって言うとかなり難しいのね。ほとんどの場合アドバイスどおりに動けずに『結局ありのままの自分を好きになってもらわないと意味なくないですか?』って言い出しちゃうのよ」
多香子「…」
僕「それに真剣に恋活、婚活するとなればどうしても手数を増やさないといけなくて、手数が増えれば増えるほど相手から拒否される回数も増えるわけ。その時に大抵の人は『自分が異性から拒否されるのは私に魅力が無いからじゃなくて、コンサルしている東城が悪いからだ!』で逆恨みしちゃうの。…だから今日は写真撮ってプロフも俺が書いてあげるから、もしコンサルをやるとしたらまず多香子ちゃんの方で3ヶ月ぐらいアプリをやって、それでもうまくいかずに『もうこれ以上どうしたら良いんだ!!』って状態になってからまた来てちょうだい」
多香子「……」
莉乃「あんたなんかちょっと多香子に対して優しくない? 私のときめちゃくちゃ言われたよ!!」
僕「そりゃ俺と莉乃じゃ関係が既にできてるし、何言ってもオッケーな状態だからな。でも多香子ちゃん、自分がなんでチャラ男を好きになっちゃうか、その理由分かってる?」
多香子「分からないです」
僕「まず女性というのは子供を産んで育てないといけないから、自分より格下の男は好きになれないのね。だってただでさえ子供産んで身動き取れ無いときに格下の男の面倒まで見てたら自分もろとも子供まで死んじゃうわけじゃん。で、ここから質問なんだけど、今が原始時代だと想像して、容赦なく他人を殴っちゃう男と、暴力なんて絶対ダメだって言ってるナヨナヨした男、どっちが生き残りそうだと思う?」
多香子「殴っちゃう男ですか?」
僕「そうだよね、悲しいけど容赦なく他人を殴っちゃうDV男のほうが生き残りそうだよね。じゃあ更に質問で、浮気性で色んなところに遺伝子ばらまこうとしちゃう男と、一途に生涯であなただけしか愛しませんっていう男、どっちが後世に遺伝子が残っていきそう?」
多香子「チャラ男だと思います」
僕「よし、じゃあ最後の質問。浮気性なDV男を好きになっちゃう女の子と、暴力反対なナヨナヨ純愛男を好きになっちゃう女の子、どっちが生き残るというか後世に遺伝子が残りそう?」
多香子「浮気性でDV男を好きになっちゃう方です」
僕「そうだよね。もう分かってきたんじゃない? 今は暴力反対な平和な時代だからイメージしづらいけど、ここが原始時代だったら浮気性なDV男を好きになってそいつの子供を産んじゃう子ほど遺伝子が残っていくのよ。それと対になる話で言うと近づいてきた男に非モテな要素を少しでも感じ取ったら毛嫌いしちゃう子もより遺伝子が残っていくのね。これがさっき俺が言った『多香子ちゃん、相手が自分のこと好きだと分かると途端に冷めちゃうタイプでしょ』ってのにつながってくるわけ」
多香子「…深いですね」
僕「でもさ、こういう話って聞いてて耳障り良くないし、なんか嫌でしょ? それに恋愛コンサルって本能に反することをやれって話になるから相手の話を真摯に聞こうと思ってないと意味ないのよ」
その後も多香子は多少不満そうな顔をしていたが、カフェで100枚、外に出てこれまた100枚近く写真を撮りクリティカルなショットをBeauty Plusで画像を加工し、プロフィールの自己紹介文もそこそこの尺で万人受けするように仕立て上げると、非常に満足そうにしていた。というよりも顔も上原多香子に似て身長も160cm以上あるスラッとした美人なのだから、大したテクニックを使わなくても男にはモテる。運良く誠実な男と出会えればよいのだが…
多香子「とりあえずこのプロフィールで頑張ってみます!」
僕「うむ、自分がなんでチャラ男を好きになっちゃうメカニズムがわかっていれば動き方も変わってくるはずだから、あとはいい人に出会えるのを祈るばかりですな」
こうしてその日はプロフを作成して解散した。
その後莉乃を通じて話を聞いたところ、1ヶ月もしないうちに多香子には彼氏ができたそうだ。
★★★★★
それから一年後、僕は莉乃夫妻の新居に遊びに行くことになった。
莉乃の旦那さんとは前々からお互い会いたいとは言っていたもののなかなかタイミングが合わず、一年越しにやっとか実現することができた。ちなみに莉乃の旦那さんは賀来賢人に似た長身のエリート商社マンだ。(以下、賢人)
郊外の一軒家に行くと二人に出迎えられ、僕と賢人君は互いにやっと会えましたねと言いつつ和気あいあいとリビングに向かうと… そこには多香子がいた。
僕「えっ、多香子ちゃん今日来てたの!? いや、呼んでるんだったら最初から言えよ」
多香子「やっぱりこんな反応になるじゃないですか。だから事前に言っておいて下さいって言ったのに」
莉乃「えへへ」
僕「いや、馴染みのある子がいる分には全然いいんだけど。でもなんで急に… って分かった! 多香子ちゃんも結婚するんか!」
そう言うと多香子の顔が急に曇る。
多香子「逆です。また浮気男に引っかかってしまいました…」
僕「なにやってんだよも~!!」
1年前、僕のアドバイスを意識しつつアプリをやったところ、2人の候補が現れた。両人ともそれなりのハイスペなのだが、一方はチャラい雰囲気の漂う男。もう一方は真面目な男で、当初は真面目な方を選ぼうとしたが、ギリギリになってどうしても"子宮がときめかない"とのことで、チャラい方を選んでしまったと。で、案の定また女の影がちらつき、明確に浮気をした証拠はないもののこれではダメだと別れた。
なんというか、典型的なダメ男好き女じゃねーか…
ここに来て3人連続のスリーストライク、アウト! となり、本人としても真面目に話を聞く決心がついたとのことで、今回のタイミングでやってきたのだ。なんにせよ、ここまでチャラ男好きな本能を変えるのは難しいが、賢人君にも協力を仰ぎつつ僕・莉乃・賢人君の3人がかりで説得すれば道は開けるかも知れない。
ひとまずは折角新居に来たということで、4人で仲良くご飯を食べつつお酒を飲んで、Nintendo Switchをやって盛り上がった。酔いも十分回ってみんな打ち解けたところで本題に入る。
僕「じゃあ多香子ちゃん、今回はアプリやってる? とりあえず俺と賢人君でどういうやつが遊び目的のチャラ男なのか教えてあげるからアプリ出して」
多香子「はい」
僕「どれどれ… あれ、写真前俺が撮ったやつから変えてるんだ。プロフ一回見て良い?」
多香子「どうぞ」
多香子のプロフを見てみると、写真から自己紹介文から、1年前に僕が作成したものとは全く別の、おそらく多香子自身で作成したであろう代物に変わっていた。写真はやっぱり顔がハッキリわからないし、自己紹介文も10行しかなかった。
僕「なんで俺が撮ったやつ使ってないの? あと自己紹介も俺が書いたやつ使えばいいじゃん」
多香子「やっぱり顔をハッキリ出すのは怖いし、自己紹介文は前アプリ辞めたときに消えちゃって…」
僕「まぁ気持ちは分からんでもない。でもそこはグッとこらえてプロフィールは充実させないとダメなんだよ。じゃあ例えばさ、多香子ちゃんは顔をハッキリ出してないし、プロフィールも大して書いてない男にいいねしたりするの?」
多香子「しないけど。しないけど、やっぱり今までチャラ男ばっかり引っかかってきたから、これだけの内容でも私のことをいいなって思ってくれる人を選びたいし…」
僕「でも多香子ちゃん多分ね、このプロフィールで楽しいメッセージのやり取りを展開できる男って相当経験豊富じゃないと無理よ。だから本気で多香子ちゃんに魅力を感じで必死で話を広げようとしてくれる男は『必死過ぎてキモい』と思うだろうし、楽しいやり取りを提供してくれる男は遊び人しかいないから、狙いとは逆の結果になっちゃてるのよ」
多香子「…」
僕「賢人君、このプロフ見たときどう思う?」
賢人「うーん、一応婚活目的で真剣にやってるわけでしょ? だったらやっぱり最低限顔だけはハッキリ出してほしいよね。自己紹介文書くのは難しいけど、自分の考えを相手にわかってもらうためのアピールの場だから、ここが書けない人と真剣に付き合うのは無理かなぁ」
僕「そうそう、やっぱりハイスペな人はそう思うよね。それに多香子ちゃん、自分の顔は載せないのになんで料理とかの写真はいっぱいアップしてるの? 多分『なんでもいいから話が広がれば』ぐらいで載せてると思うんだけど、これもハイスペからすると『いや、そんなのはどうでもいいから顔載せようよ』ってなるのね」
賢人「(うなずく)」
僕「あと旅行が好きって書いてるけど、これも男からすると結構減点ポイントなのよ。海外旅行って明記してない分まだいいんだけど。それで多香子ちゃんが好きなハイスペって女の子のどこを見てるか言うと『浪費せずに、ちゃんと子育てしてくれるかどうか』なのね。そんなときに『趣味:海外旅行』なんて書いてあったら最悪よ。国内だって1回旅行に行ったら最低でも4~5万円かかるし、海外となったらどれだけ安くても20万はかかるわけじゃん。マジで金の出どころどうなってんの? って思うわけ。それで『結婚して子供なんか生まれたら最低でも2~3年は旅行は無理だけど、それでも平気? 子供放り出して自分だけで旅行行っちゃわない?』って心配になるのよ」
賢人「(大きくうなずく)」
僕「それでプロフの中でも一番やっちゃいけないのが『アプリは不慣れで、使い方よく分かってません』ってやつね。いや、使い方よく分からないとか無いじゃん。これって『私はアプリが不慣れだから、男側あなた達でいい感じにリードしてね』っていうシグナルになっちゃうのよ。そんな受け身な人にハイスペが行きたがると思う? あと他にもやっちゃダメなのが『真剣な方のみお願いします』ってやつ。チャラ男からするとこの一文を見ると『あっ、この子はチャラ男に引っかかりやすいんだな』って分かっちゃうわけよ。だって普通に今まで男から遊ばれた経験がなければこんな文章書かないもんね」
賢人「(更に大きくうなずく)」
もうこの時点で多香子は涙目だった。
莉乃「ちょっとあんたたち、いきなりキツイこと言い過ぎ」
僕「いや、俺だって言いたくないよ。だから真剣に恋愛コンサルするとこうなるから今まで嫌だって言ってたんだって。でも俺の話聞いてて賢人君的にはどう思った?」
賢人「大筋では同意かな。確かに多香子ちゃんのこのアプリのプロフだけを切り取ると『受け身だな』とか『損をしたくない』って感じはしちゃうよね。こうやってみんなでワイワイやってる分には全然そんな感じはしないけど」
僕「そうなのよ。みんなで遊んでる分には全然いい子なんだよね」
賢人「多分今まで男運があまり良いほうじゃなかったから、そういう入り口のところではどうしても身構えちゃうんだよね。でもある程度真剣な男としては将来のことを考えると受け身で損得を気にする子は敬遠しちゃうかな。だって長く付き合うとどうしてもどちらか一方が損な役回りをしないといけない時期ってあるじゃん。例えば女の子で言えば乳児期の子育てとかね。そういったときに損得に敏感な子だと、子育てとかちゃんとできるかなって不安になるよね」
僕「賢人君はほんと優しい言い回しをするなぁ。急に莉乃を褒めることになるけど、莉乃の何が良いって損得を全く気にしない女なのね。自分から飯屋の予約も取るし、話しててもガンガン話題広げるし、お代だって多く払ったりするからね。なんてことない話だけど、これができる子ってほんといないのよ。ね、賢人君」
賢人「そうそう、自分から予約取る子ってマジでいない。女同士だと出来るのに、それが相手が男になると途端にできなくなっちゃうのよね」
莉乃「(満更でもない表情)」
僕「まぁ大酒飲みなのと色気が全く無いのが困ったポイントなんだけどな」
莉乃「おい」
多香子「じゃあ私はどうすればいいの? 自分から予約取ったりすればいいの?」
僕「予約をとるっていうのはあくまで例え話だからね(笑) ………でも、やっぱりチャラ男が好きとか、自分より格上の男がいいっていうのは本能的なことだから、多分それは変えられないと思うんだよ。だから禁じ手的に『浮気しないチャラ男を探す』方針にしよう」
莉乃「そんな無茶な」
多香子「出来るんですか… そんなこと?」
僕「いや、とりあえずやれることはやってみよ。基本的な作戦としては、まずは完璧なプロフを作り上げて、最低でも2000いいねを獲得させる。それでも自分にいいねをしてこなかった格上の男に自分からアプローチするようにしよう。それでこのアカウントは作ってから時間が経ってるから、別のアプリでやろう」
賢人「最初の1週間で1000は超えるだろうけど、愛知で1ヶ月のリザルト2000超えるのは難しくない?」
マッチングアプリの種類や時期によって男女の平均獲得いいねの数は異なるものの、当時僕らが始めようとしていたアプリでは愛知の女子のトップが4000だったはず。そこから間が開くものの、少なくとも2000を超えていれば愛知県でトップ10に入る。
僕「大丈夫。策はある。俺と賢人君ならいいね2000を超えるプロフが作り上げられるはずだ」
そこから僕は多香子にヒアリングしつつ、自己紹介文の叩き台を作り、それを賢人君にブラッシュアップしてもらうという方式を採った。嘘は盛り込まないが、男にとって減点となってしまう部分は言わないことにした。
男のプロフ作りは基本的に加点方式だ。いかに自分は金を持ってて、友だちが多くて、今までモテてきたかをさりげなくプロフに盛り込まなくてはいけない。けれども女のプロフは減点方式で、金があって友だちが多くてモテるアピールは逆効果になってしまう。いかに男が引く要素を盛り込まないかがポイントになってくる。
こうして出来上がったのが以下の自己紹介文だ。
こんにちは! はじめまして。
プロフィールを目にとめていただき、ありがとうございます。少し長いですが最後まで読んでいただけたら嬉しいです!
★仕事
営業事務の仕事をしています。
担当の営業さんにスムーズな提案活動をしてもらえるようにメール・電話対応やスケジュール調整、プレゼン用のパワポ作成などをしています。社内は年齢層高めな男性が多く、そんなオジサマたちの寒いダジャレをにこやかに受け流しつつ、モリモリと仕事をしています(笑)★性格
最近は周りから「明るい」「頑張り屋さん」と言ってもらえることが多くなりました
元々は引っ込み思案な性格で、学生時代は「クール」と言われることも多かったのですが、社会人になってからはどんなときでもニコニコするように心がけてます!
ただ今でも人見知りなところがあって、初対面の人には緊張して早口になってしまうところがあります。もし早口になっていたら心の中で「(緊張しながらも頑張って喋ってるんだろうなぁ)」と思って笑って許して下さい🤣★好きなもの
純喫茶。
最近はおしゃれなカフェよりも昭和な雰囲気の残るレトロな純喫茶にハマってます☕
本当はもっと純喫茶に行きたいのですが、周りの友達がなかなか一緒に行ってくれないのでオススメのところに連れて行ってもらえると喜びます😉★今年の目標
FP3級を取得すること!
以前簿記3級は取得していたのですが、会社からの勧めもあって今度はFPに挑戦します😼
これから資産運用を始めて、結婚後の自分のランチ代は積立NISAから出た利益で賄っちゃいます💸💸★理想のタイプ
年齢問わず、一生懸命仕事している人!
昔はお父さんが仕事ばっかりして家にあまりいなかったので、お父さんのことがあまり好きではなかったのですが、いざ自分が社会人になってみるとその苦労がわかった気がします🥺 なので朝は旦那様のためにお弁当を作って、夜は帰宅に合わせて温かいごはんを出すなど、最大限サポートできればなと思ってます🌞かなり長くなってしまいましたが、ここまで読んでいいただきありがとうございました!
素敵な出会いがありますように🌟🌟
この自己紹介文のコンセプトは「いいねを集めるために、とにかく間口は広く」だ。
受け身な要素は限りなく削ぎ落とし、色んな人から好いてもらえる要素を詰め込めるだけ詰め込んだ。
まずは自分の仕事をちゃんと明記。楽しく仕事をしつつ、周りに男の影がないことをアピールする。性格も単に「人見知りです」で終わらせるのではなく、それを改善しようとしている姿勢を見せる。好きなものも本当は旅行やディズニーのほうが優先度が高いが、それは男ウケしないので却下。「純喫茶が好きだけど友達が一緒に行ってくれない」と書いておけば、メッセージのやり取りでも男側が「今度一緒に行きませんか?」と誘いやすくなる。今年の目標もFP3級レベルでありながらもスキルアップをしようとしている姿勢をアピール。美容や筋トレよりもFPの方がしっかり家計を守ろうとしている感じが出て良いのでこちらを採用。理想のタイプについても「年齢は問わず」「一生懸命仕事している人」と、ほとんどの男が当てはまるように設計。
就活にしろマッチングアプリのプロフにしろ、「何を言うか」と同じくらい「何を言わないか」も重要だ。特に女の子の場合、自分の嫌いなものを自己紹介文に書きたがる傾向がある。「顔写真がない人は嫌」「歳が離れすぎている人は嫌」「自分勝手な人は嫌」。良識のあるハイスペなら、自分のプロフにわざわざ嫌なものを列挙している人を選ばない。例えば男のプロフに「年下が好きです!」と書いてあって「あっ、私は年下だ。よし、いいねしてみよう!」となるだろうか。なるはずもなければ自分が他人からどう見えるか分かっていない男として逆に敬遠されるだろう。
このプロフの中でも多香子が一番難色を示したのは理想のタイプにおける「年齢問わず」という部分だ。本人曰く過度な年上からいいねが来るのが嫌だとのこと。これは女性的な感覚になるのだけども、明け透けに言えば「明らかに格下の男からわずかにでも"自分にもいけるかも"と思われること自体、加害性を感じてしまう」のだ。ここは「今回の目的はまずはいいねを集めるのが目的だから」「眼中にない人からいいねが来ても無視すれば良いだけ」となんとか説得。ちなみにここは当初「職場は年上の方が多いですし、過去に年下の彼氏もいたことがあるので、年齢はあまり気にしません!」という文言にしようとしていたのだけれども、賢人君からの「男の匂いはしなければしないほど良い」というアドバイスで「年齢問わず」へと簡略化された。
肝心のプロフ写真については1枚目に近所の町中華でビールのジョッキ片手に満面の笑みを浮かべている写真を配置(後で撮影しに行った)。2枚目はキッチンで楽しそうに洗い物をしている写真。3枚目はネットで拾ってきた名古屋で有名な純喫茶の外観写真。写真は正直顔が分かるもの2枚と自分が好きなもの1枚あれば十分だ。自分が行ったのかどうかもわからないウユニ塩湖の写真、友達と行った高級レストランで直径30cmぐらいの白い皿に5cm角の肉が乗ってるような写真を10枚近くアップされても男からすればテンションが下がるだけだ。
ここまできて、やっとプロフィールが完成。そこからの動きについては僕・莉乃・賢人君で詳細に詰めた。基本的な戦略としては、こちらが2000いいねを獲得していても、それでもいいねを送ってこないような格上の男に自分からアプローチする。狙うのはあんまりヤンチャができない公務員。体型も筋肉質な感じで、できれば…具体的な職業名はここでは伏せる。
こちらからいいねを送ってマッチングができた場合は、最初の3手は必ず疑問形で終わらせる。相手も同じように疑問形で返してこなかったら切っていいとルールを決めた。最初は多香子も「自分からメッセージを送るなんてできない」と言っていたので理由を聞いてみると「だって人見知りだし…」とかなんとか、要領の得ない回答が返ってきた。要するに、自分からメッセージを送って返ってこなかったときを考えて「損をしたくない」のだ。
女の子の恋活・婚活はこの「損をしたくない」という感情との戦いだ。20代中盤の女の子がマッチングアプリをやれば開始1日で100~200いいねは来る。適当にこちらもいいねを返してマッチングさせればファーストメッセージから「あなたのような美人は初めて見ました!」「お代はこちらが全額払うので、一度だけでも良いのでぜひ食事させてください!」という香ばしい文章が送られてくる。そんな自己肯定感がMAXまで上がった状態で、自分からメッセージを送って、返事が返って来なかったらとても耐えれたもんじゃない。
ただそういった「損をしたくない」という感情を全面に出して寄ってくる人間は大半が格下の男になるだろうし、自分と釣り合うもしくはそれ以上の男はそんな女の子とはマッチングを敬遠するというパラドックスが発生する。「目先の1の損をしたくないがために、その後の10の得を逃している」ようなものだ。
ここもなんとか多香子を説得して、言う通りにしてもらうことにした。詳細にルールを決めることで「自分はあくまで東城君の言うことを聞いているだけ」という心理的な逃げ道を作ることにしたのだ。
その後も「店選びは向こうに任せて、予約は自分で取れ」「席に着いたら『男の人ってみんな勝手に払ってくれちゃうけど、自分のお代は自分で払うからね』と言え」「多分それでも男は勝手に払うだろうけど、その場合は『スタバでフラペチーノ奢らせて』と提案しろ」と指示した。僕が具体的なアクションプランを提案して、その背景を賢人君が説明するというフォーメーションだった。
プロフィール作成もアクションプランの説明も一通り終わり、その日は解散となった。
まずはいいねが2000を超えるのを待つばかりだ。
★★★★★
僕の目算としてはいいね2000を超えるのはアプリ始めて3週間はかかるだろうなと思っていた。が、実際は10日ほどで達成してしまった。
ここから話はトントン拍子に進んでしまって面白みがないのだけれども、2000いいねを超えて当初の計画通りこちらからいいねを送る男をピックアップしてもらった。一人目の候補で僕も賢人くんも「この人いいんじゃない?」となり、無事話も進み、居酒屋デートが決定。初めて会って2時間後、居酒屋を出たところで向こうが告白。そこから3ヶ月後には同棲をするのしないのという話になって、結局半年後には結婚することになってしまった。いくらなんでも話が進みすぎだろう。
多香子の旦那さんについて話をすると、これは僕らが当初狙いを定めていた通りの長身マッチョの公務員だった(鈴木亮平似なので以下、亮平)。亮平さんは多香子と会う2ヶ月前からアプリを始めており、愛知の男性では珍しく300いいねを稼ぐほど人気な会員で今まで何人か女の子と会ってきたものの、いずれも女の子の受け身な態度にアプリの限界を感じていたそうな。
個人的な好みと職業柄から結婚相手にはサポーティブな女の子が良いと考えていて、多香子がいいねを送る前にプロフは読んでいていたものの、あまりにも自己紹介文が出来すぎているので美人局を疑っていたらしい。それにこちらからいいねを送っても多香子は2000いいねも稼いでいるので「いいねを送っても埋もれるだけだよな。よし、このままアプリはやめよう」と思っていたところで、まさかの多香子側からいいねが来た。
向こうからメッセージを送ってくるし、会話も自分から広げるし、店も自分で予約するし、いよいよこれは美人局だと。でも実際に会ってもし美人局じゃなかったら告白しようとしていたらしい。そして店に着くなり「お代は自分で払いますからね」と多香子が言った瞬間「(結婚しよう)」と決意したそうだ。
後日僕と亮平さんは会うことになるのだけども、亮平さんは「君が多香子のプロフィール書いてくれてたのか! いやー、あんな立派なプロフを書ける子が周りのコミュニティの男に刈り取られることもなくマッチングアプリに来るわけないから、絶対美人局だと思ってたんだよ。まぁ君が詳細に指示を出してたみたいだから実質美人局みたいなもんだけどね(笑)」と豪快に笑っていた。
そんな亮平さんを終始うっとりとした目で見つめる多香子に内心「(女の本能、むき出しになっとるやんけ)」と思いつつ、小一時間談笑した後、解散となった。
僕「(また一人俺のコンサルで結婚に導いてしまったか…)」
僕は満足感に浸されながら帰路についた。
家についてコーヒーを淹れ一服してると、頭の中である疑問が沸き起こった。
僕「(なんで当の俺はいつまで経っても結婚できないんだ?)」
酒もタバコもやらないし、金遣いが荒いというわけでもない。一体何が悪いというのか。
まぁ結婚できないということは何かが悪いんでしょうね。