motoさんの『転職と副業のかけ算 生涯年収を最大化する生き方』を読みました。
この手のビジネス書にピンと来る人は恐らく僕と同じく「意識は高く、それなりに行動しているけども、イマイチ実績は挙げられていない」という人ではないでしょうか。
特にこの『転職と副業のかけ算』というフレーズだけ見ると、転職を駆使して楽に年収を上げ、それでいて副業もサクッとこなすことで豊かな人生を送る方法を伝授してくれそうですが、中身を読むとそれは全く異なっていました。
さて、本書の筆者であるmotoさんは4回の転職を経て現在は32歳でベンチャー企業の営業部長を務め、その年収は1000万。
また本業とは別に自身の転職経験から学んだことを綴ったサイト『転職アンテナ』を運営しており、そちらは年収で言うと4000万円もの売上があるそうです。
この話だけ聞くと「さぞかし若い頃からエリート街道を突き進んできたんでしょうね」と思うことでしょうが、なんとこのmotoさん、短大卒で新卒時には年収240万のホームセンターのレジ打ちをしていたと言うから驚きです。
ではなぜ短大卒/ホームセンターのレジ打ちという状況から現在では本業と副業合わせて5000万円もの年収を稼げるようになったのか。
その経緯と思考法がこの本にはすべて詰め込まれています。
自分の金は自分で稼げ
初めて自分の力でお金を稼いだ小学生時代
motoさんは少年時代、お金に関しては非常に厳しい家庭で育ち、親の教育方針からお小遣いは一切もらえなかったそうです。
父親からは常に「自分の金は自分で稼げ」と言われ、好きな物を買うためになんとか自分でお金を稼がなければならない状況でした。
そんなmoto少年が初めて自分でお金を稼ぐ経験をしたのは小学生の頃。
親戚からもらったお年玉でポケモンを買い、最初にもらえるポケモンを友達に売ってはリセットしてまた別のポケモンを売る。
そうすることで初めてお金を稼ぐということを覚えたのです。
他にもゲームの転売でお金を稼ぎ、新作のゲームを買った友人から空き箱を無料で譲り受け、中古ソフト屋で箱無しのゲームを買い、買ったソフトと空き箱をセットで売りに出すことで利益を生む。
そしてお金稼ぎも更に加速し、高校生の頃になると文字の打ち間違えで「Dior」が「Diol」になってしまったような、いわゆる「誤字商品」の転売をすることで月に20万円もの収入を得るのでした。
お金を稼ぐことに快感を覚えたmoto少年もやがて受験シーズンを迎えます。
受験勉強をするにあたって今まで行っていた転売はすべて辞め、受験勉強一心に。
転売のやりすぎで一度は地に落ちた成績でしたが猛勉強のかいもあり、都内の上位私立校であれば合格できるほどの学力になるのでした。
しかしここでお金の問題が浮上します。
親から「大学以降の資金援助は一切しない」と言われてしまったのです。
悩んだ末の短大進学
「4年制の大学を卒業するには、奨学金を借りないといけない状況でした。しかし、奨学金を借りたら、卒業後に数百万円の借金を背負った状態で社会人生活をスタートすることになる・・・。
悩んだ末に僕が出した答えは、地元の短大への進学でした。地方の公立短大なら学費や生活費も安い。そのうえ2年間で卒業して、同級生より早く社会に出ることに、大きなメリットを感じたのです。
2年間本気で働いて結果を出せば、2年後には四大卒より高い給料をえられるかもしれない。短大卒と四大卒では初任給に大きな差がありますが、その差は自分次第で埋められると考えました」
こうしてmoto青年は短大へと進学するのでした。
しかしこの短大、元々は女子校だったため、男女比が1:99という特殊な環境。
短大に珍しく男子が入ったということで色めき立っていた女の子からも、面と向かって「ただのオタクじゃん」と言われガッカリされてしまう始末。
そんな状況にもめげず身なりや話し方を工夫し、徐々に「印象が変わったね」と言われ始めた矢先、自分の特殊な環境を綴ったブログを開設すると、これが芸能人を抑えてアクセス数No.1ブログになります。
更には生徒会の会長にも立候補し、「女性比率9割の学校で無名男子が勝つには戦略が必要だ」と考え、学長と県の教育委員会に直談判。
「僕が生徒会長になって、男子の新入生を獲得する広告塔になります!」と訴えたところ、見事大学の教授陣のバックアップを勝ち取り生徒会長の座を勝ち取ります。
苦難の就職活動
一度は資金難で大学進学を諦めかけ、そして悩んだ末に進学した短大でも苦難の目に遭い、なんとか乗り越えてきたmotoさん。
しかし就職活動は短大卒という学歴が足枷になり、そもそもエントリーができません。
「学歴で仕分けされてたまるか!」と人事に直接連絡を取り、面接の機会を得るも不合格に。
そして同じ面接の場にいた四大卒の人間からはバカにされ、心が折れかけます。
それでも諦めることなく、大学の職員を装って人事にコンタクを取ってみたり、それでもダメなら社長に直接コンタクトを取ってみたり、工夫を重ねます。
面接の機会が得られるのであれば自分でプレゼン資料を配って面接官に配ったり、自分でサイトを作って紹介するなど、あらゆる手段を使って自分をアピールしたのです。
そうこうしているうちに段々と企業からも内定が出るようになり、その内定をもとに一度落ちた企業に対しても「○○から内定が出たのでもう一度面接を受けさせてください」と交渉をするようになります。
面接でのプレゼンの精度も上がっていき、自分自身の実体験をもとに応募先企業がこれから取り組むべきことや、自社サイトの改善点について列挙し、「自分ならこのような改善ができる」というアピールを繰り返したのです。
そして遂には大手企業からの内定をも勝ち取ります。
大手企業に入ることは正解なのか
短大卒から大手企業の内定を獲得したことは大きな自信になったものの、あるときふと気づきます。
「大手に入って、僕は何がしたかったんだ?」
内定企業の平均年収を調べてみると実はそこまで高くなく、初任給に至ってはどこも横並び状態。
仕事内容も「総合職」であるがゆえ、不透明。
この気付きからmotoさんはなんと年収240万円のホームセンターを選びます。
今は昔と違って若い人でも実績を挙げれば大企業からヘッドハンティングされ、20代でも年収1000万円稼ぐことが可能になった時代です。それなら自分で旗が上げやすい環境で実績を作り、転職でのし上がったほうが良いのではないか。
たとえ初任給が低くても自分への投資だと割り切る。その代わり自分が早期に評価される会社に入り、実績を出して転職でのし上がろう。
では実績を挙げやすい業界はどこなのか。
その時、普段からよく買い物をしていたホームセンターが目に付きます。
いつ行っても店内のレイアウトが雑で、価格設定も近隣の店舗に比べると魅力がなく、素人目線でも改善点が挙げられるようなお店でした。
ただ、ホームセンターはそれまで受けていた大手企業とは違い、入社後の自分のやるべきことが解像度高く描けました。
自分を成長させる機会を作る
大手企業の内定を蹴り、周りの猛反発を受けながら地元の年収240万円のホームセンターに就職したmotoさん。
最初はレジ打ちから商品の袋詰、そしてクレーム対応と全く面白みのない仕事から始まります。
「同じ給料なら働かないほうがいい」という同期を尻目に、自分の経験値を優先して働くことを意識し続け、誰よりも「自分を成長させる機会」をもらう努力をします。
入社早々から「僕は店長になりたいです!」と周りに高らかに宣言し、「店長になりたいから経営会議に出席させてくれ」と、しつこいぐらいに "成長するための機会を得る" コミュニケーションを続けます。
そうすると当然周りの先輩社員はmotoさんのことをよく思いません。
中には意地悪として「店舗のレイアウトをやるか? まぁお前じゃ徹夜になるだろうけどな」と仕事を振ってくる先輩もいました。
通常なら入社5年目以降の社員しかできない仕事を入社半年でやれるというのです。当然飛びつきます。
また新入社員という立場を利用して、役員に対してもそのやり方は間違っていると指摘して場を凍らせながらも、実際に自分の考えが売上につながることで数字として能力を証明し、徐々に周りから認められていきます。
そして入社半年で店長会議にも参加できるようになりますが、始めは周りの言っていることが分からず、会議中は精一杯知ったかぶりで乗り越えるものの、会議後に店長に「さっきの内容をもう一度説明してもらっていいですか」と聞き、笑われたり。
背伸びして働く分、本当にキツイ毎日となり、言われることも知らない分からない。それでも虚勢を張って「できます! でやります!」と行動し続けた結果、入社1年後には同期よりも圧倒的に多くの知識と経験を得るのでした。
実績を挙げ、転職へ
自分から積極的に仕事を獲りに行ったことから、入社経験年数が浅いながらも色んな仕事に携わることができました。
その中でも新卒採用に携わったことがmotoさんのキャリアに大きな影響を与えます。
当時の社長から「新卒で東大生を10人採用してほしい」と無理難題を頼まれ、少ない予算の中色々と思考を巡らせます。
そもそも採用に関しては全くの素人で、手始めに大手求人媒体に求人情報の掲載料を聞いてみると、価格があまりにも高すぎてとても利用できない。
「学生時代にブログでアクセスを稼いだ経験があるし、大手から内定を獲得した経験を活かして就活ブログで集客してはどうか」
採用する側の目線と、自分の就職活動経験を綴った就活ブログの活用を考えたのです。
「大手を蹴ってホームセンターに就職した話」を皮切りに、仕事終わりにブログを更新していると徐々に読者が増えていきます。
するとある日「うちの採用アドレスに、問い合わせが殺到している!」と会社から連絡が。
ブログに載せていた就活記事がYahoo!ニュースのトップに掲載されたことから就活生の認知が一気に上昇。
当初はmotoさんが個人的にやっていたこの就活ブログも、翌年からは会社として運営していくことになるのでした。
そしてそのブログの評判を聞きつけた人材会社から転職のオファーが舞い込み、最初の転職の道が拓けるのです。
240万円から1000万円へ
ここからは駆け足でmotoさんの軌跡を紹介していきますが、転職先で実績を挙げ、そして転職をするという方法で
1回目:240万円→369万円(ホームセンターから人材業界へ)
2回目:369万円→540万円(人材業界から人材業界へ)
3回目:540万円→700万円(人材業界からIT系へ)
4回目:700万円→1000万円(IT系から広告業界へ)
という年収アップを実現します。
どの現場でも努力を重ね、愚直に自分の市場価値を高め続ける。
あなたはもし、明日、会社に出勤して、上司からクビを宣告されても「分かりました。では次に行きます」と言える状態になっているでしょうか。
年収を上げる転職には「今いる会社」で成果を出すことが必要です。
「会社にキャリアを用意してもらう」とか「給料はもらうもの」という従来の考え方は捨てて「キャリアは自分で取りに行く」「年収を自分で上げに行く」「副業を通じてお金を稼ぐ」といった考え方を持つことが重要です
能力を高める訓練の場は「自分の経験したことのない仕事」のなかに潜んでいます。「どうせ同じ給料なら働かないほうがいい」「上司に評価されないからやらない」と考えてしまうのは、大きな機会損失です。
自分の仕事は将来の実績につながるか
この記事の冒頭でも言いましたが、僕はこの本を「転職を駆使して楽に年収を上げ、それでいて副業もサクッとこなすことで豊かな人生を送る方法を指南する」本だと思っていましたが、中身はごくごく真っ当に努力し、そして実績を積まないことには年収は上げられないよというものでした。
ちょうど僕も今会社で後輩を指導するポジションになったり、会社に対して色々なレポートを出さないといけない立場になりつつあり、正直「めんどくさいなぁ」であるとか「大して給料も変わらないなら後輩の指導もレポートも出したくない」だなんて思っていました。
しかしこの本を読んでいるとそいういう思考は捨てないといけないと分かります。
例えば後輩を指導するにしても、自分でしっかりとしてマニュアルなりを作ることで今後の教育工数の大幅に削減に貢献する。
もしくは会社に出すレポートも、形だけでも会社に対して意見する機会があるのだから業務の効率改善に一役買うようなアイデアを出してみる。
そうしてそれを実績として転職面接の場で話すことで、年収を上げていく。
同じ仕事をするにしても、それを「直接的には給料に結びつかない面倒事」と捉えるのか「将来の年収アップを見据えたチャンス」と捉えるかで、仕事に対するスタンスも変わっていくのだなと、大変衝撃を受けました。