映画

高校の部活帰りによく食べた忘れられない味『トップガン:マーヴェリック』

 映画館で『トップガン:マーヴェリック』を観ました。

 

 「高校の頃、部活帰りにいつも友達と一緒に行っていた定食屋がある。そこは丼に唐揚げとトンカツとハンバーグを乗せて、正直ただ油っこくて味が濃いだけの料理で、当時から批判も多かったけれど、いつも人で賑わっていた。ある時、店主が亡くなってしい、その店は敢え無く閉店となってしまう。それから数年後、あの味を再現してもう一度店を開くと語る料理人が現れた。その料理人は確かに腕はあるもののあまりにも生真面目すぎ、あの大雑把な味を再現できるか誰もが不安だった。それでいて当時は現在使用が禁止されている化学調味料が使われているときている。長い準備期間を経て店が開店し、その料理を見るとパッと見は当時のものが忠実に再現されていた。そして一口食べると当時と同じなのである。ただ食べ進めると丼の下の方は味が絶妙に変えられ、現代人の口に合う味にされていたのである…」

 『トップガン:マーヴェリック』を観た感想を何かに例えて話すならこうなります。

 

 以下、前半の展開については一部ネタバレあり。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 本作はアメリカ本国で公開されるやいなやオープニング3日間で1億2000万ドルを稼ぎ出し、コロナによって長らく低迷していた映画業界に明るいニュースをもたらしました。同じく日本でも公開1週で興収20億円を突破するなど、特大のヒットを飛ばしています。もちろん僕も前作は大好きで、一刻も早く観たいと思っている中、公開3週目にしてやっと観に行くことができました。

 まず劇場に着いて驚いたのは観客の多さ。公開3週目にもかかわらず客席の半分以上が埋まっていました。近年映画館もスクーン数が増え、キャパも大きくなったことから客席が半分以上埋まる光景というのは長らく観ていませんでしたが、公開3週目の続編映画でここまで観客がいるのは久々の光景でした。そして観客の年齢層の高さ。おそらく平均年齢が50歳は超えており、大半が夫婦でした。先日『ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス』を観たときは若いカップルやピンの観客が多かったのとは対象的です。

 肝心の映画の内容としては、公開前はクオリティに不安がありました。前作の監督であるトニー・スコットは死去してしまい、制作に関しても長らくストップとゴーサインが繰り返される。そして新たに監督に抜擢されたジョセフ・コシンスキーは「『トップガン』を作るには彼はちょっと生真面目すぎるんじゃないか」と思っていました。『トップガン』は良くも悪くもあの軽快なノリが重要なので、開発期間が長くなれば長くなるほど企画をこねくり回して、本来の良さが失われてしまうのではと心配は膨らむばかり。

 ところがいざ映画が始まってみると、最初に「Don Simpson/Jerry Bruckheimer Films」と出て、思わず身を乗り出してしまいました! えっ、ドン・シンプソン死んでるけど、敢えてこのロゴを使うの!? その後前作と同様のトップガンの説明字幕とタイトルがドンと出て、そのままアンセムが流れるあたり興奮は最高潮に。そうそう、変に凝った作りをせず前作と同じにすれば良いんだよ。こういうのでいいんだ、こういうので!!

 ストーリー自体は前作をなぞりつつも、最低限の現代的な要素を入れつつ、非常にシンプルなプロットが展開されます。一言で言えば「トップガンに所属するエリートパイロットを育成し、ならず者国家によって運営される濃縮ウラン精製所を爆撃する」というもの。近年の複雑化した映画のストーリーを考えるとシンプルすぎるほどシンプルです。

 特に2010年以降のハリウッド映画はストーリーが複雑になりつつあります。それはプロットがひねりを効かせすぎているというよりかは、編集段階で切られすぎているんですよね。YouTubeの台頭による観客の「情報量の多い映像」への要望や、動画配信などで「手軽に後から何回でも観られる」という視聴環境により、ちょっと切り過ぎとも言えるほど映画本編を切るんですよね。以前『テネット』を観た時は上映中ストーリーが1秒も把握できず、文字通りポカーンとした状態で映画を見ていました。その点『トップガン:マーヴェリック』は非常にシンプルなストーリー設計で安心して観ていられました。

 ただこの『トップガン:マーヴェリック』が映画単体として優れた映画かと問われれば、諸手を挙げて賛成とは言えないでしょう。ストーリーは前述の通りシンプルすぎるほどシンプル、予定調和of予定調和でこちらの予想を裏切る展開は何一つありません。ヒロインのジェニファー・コネリーとのラブストーリーもカットしようと思えばすべてカットできてしまう。困難らしい困難は登場せず、すべてトム・クルーズことマーヴェリックの天才的スキルで易易と乗り越えてしまう。

 通常であれば続編映画が前作と同じストーリーラインを有していたらいくら期間が空こうとも「退屈」とみなされてしまいます。しかし『トップガン』においてはそれが逆にフレッシュと捉えられるのはひとえにトム・クルーズのカリスマ性であったり、『トップガン』が一つの時代のアイコンとして存在しているからなのです。

 劇場で本作を観た時は、あまりの映画の面白さに観客同士に不思議な一体感がありました。今にも拍手が起こらんばかりの雰囲気。中でも一番面白かったのは夫婦で来ている人たちで、旦那さんのほうが興奮気味に熱っぽく作品の感想を語る傍ら、奥さんのほうがそれを微笑ましく聞いているという。その感想の多くが「前作『トップガン』を観た時はどうだった」というものばかりなのです。

 『トップガン』は不思議な作品で、ストーリーが言及されることはほとんどありません。ただし当時トム・クルーズがしていたティアドロップサングラスやフライトジャケット、カワサキのバイク、ケニー・ロギンスの『デンジャーゾーン』など本作発祥で多くの流行を生み出し、まさに時代を代表する作品となっているのです。だから『トップガン』は単なる面白い映画作品というよりかは、その時代丸ごとを体感させるライド作品なのです。

 僕は平成生まれなのでもちろん『トップガン』直撃世代ではありませんが、ちょうど映画にハマり始めた中学時代にリバイバル上映を今はなき名古屋駅のピカデリーという映画館に観に行ったぐらいですので、思い入れは同世代に比べて人一倍あります。当時はレンタルでもVHSからDVDに潮流が変わり始めた頃で、GEOで100円レンタルが開催されていて貪るように映画を見ていました。ちょうど80年代のブロックバスター映画を片っ端から観ていたときに名古屋駅でリバイバル上映がされると聞き、慌てて駆けつけました。初めて一人でアニメでもないちゃんとした映画を電車に乗ってはるばる観に行ったので、今でもピカデリーの様子ははっきりと覚えています。

 無理に捻った要素を入れず、前作を踏襲しつつも正当に進化させた作品を提供してくれたおかげでとても楽しい映画体験をすることができました。前作を楽しめた人全てに安心してオススメできる優れた映画です。

-映画

© 2022 名古屋とエンジニアリング