AmazonPrimeで『パワーレンジャー』を観ました。
※今回の作品はAmazonプライム会員であれば無料で視聴可能です。→AmazonPrimeビデオ
上映時間
124分
オススメ度
星5点満点中:★★★
ストーリー
紀元前の地球。世界の運命を決める戦いが起こり、地球はある5人の戦士によって危機を脱した。そして現代、小さな町“エンジェル・グローブ”に暮らす5人の平凡な高校生たちは、運命に導かれるように出会い、驚異的な力を身に付ける。やがて彼らは、地球に迫る脅威に立ち向かうことになるのだった。<Yahoo!映画>
感想
2017年にハリウッドで公開された実写版『パワーレンジャー』。
昨今の「昔のコンテンツを現代にアップデートし、物語を再構築する」という流行りに乗っかり、予告編を見る限りは『クロニクル』風のダークな雰囲気に仕上がった本作。
公開当時は『美女と野獣』というメガヒット作に阻まれ、興行成績も1位こそ取れませんでしたが、初週で4000万ドルという文句ない興行成績を叩き出しました。
今回はそんなハリウッド実写版『パワーレンジャー』のレビューをします。
色んな売れ筋の要素を詰め込みすぎて、話が散漫になっている
まず本作を観ていて最初に気になったことが「色んな売れ筋の要素を詰め込みすぎて、話が散漫になっている」ということです。
例えば素行不良が原因で補修を受けることになり、そこで違う(スクール)カーストの人間と出会うという冒頭の流れはまんま『ブレックファスト・クラブ』ですし、そこで出会った仲間と特殊な出来事に遭遇しスーパーパワーを授かるという展開も『クロニクル』と同じ。
スーパーパワーを授かってから自分の力に困惑する流れは『アメイジング・スパイダーマン』、敵キャラの造形は『マイティ・ソー』、全体的なセットデザインは『スター・トレック』。終盤の巨大ロボット登場シーンは『トランスフォーマー』『パシフィック・リム』
なんというか "売れ筋映画闇鍋" とでも表現すべき様相になっており、映画の序盤では上でも書いたとおり『クロニクル』調な比較的ダークな雰囲気で物語が進んでいくんですよ。
ただしメンバーがどいつもこいつも小気味いいジョークを言いそうな顔をしてるので、役者(の演技)と映画全体のトーンが全然マッチしてない。
そして序盤なダークな雰囲気を経て遂に彼らが「パワーレンジャー」になるというところで一気に雰囲気が変わり『スター・トレック』調な軽快な雰囲気になるのですが、それまでが重たい雰囲気だったこともあり、ギャグがまぁ滑ること滑ること。
主演のデイカー・モンゴメリーが『スター・トレック』のクリス・パインに似ていることもあり、それでいてメンバー構成もセットもなんだか『スター・トレック』そっくりなんです。
…と、思っていたらなんとこの『パワーレンジャー』、企画段階で『スター・トレック』のプロデューサーであるロベルト・オーチーが参加していたとのこと。そりゃ似ますわね。
後半はこういった戦隊モノの定番、巨大ロボが登場するのですが、これはもうまんま『トランスフォーマー』と『パシフィック・リム』なんですよ。
メカの造形自体は『トランスフォーマー』でもあったような姿をしているものの、操作方法や動き方は『パシフィック・リム』方式を採用していて動きがスロー。
うん、既に巨大ロボットモノで『トランス~』『パシリム』を観ているのに、そこから何の捻りもないとちょっとツライ。
と、ここまで散々他の作品に似つつ、そこからパワーダウンしてると指摘はしましたが、では絶望的につまらないかと言うとそうではなくて、ギリギリ「面白い」と言えるラインは超えてるところが憎いんですよね。
売れ筋闇鍋状態なので、ひとつひとつの要素は楽しい。だけれども一つの映画として全体を眺めるとものすごくイビツな作品であることは確か。
これを飲食店に例えると「小綺麗なレストランに入ったら『ミスドのドーナツ』『叙々苑の焼肉弁当』『海から獲れたて新鮮なホッケの塩焼き』など、まるで連続性はないけどそれぞれはどれも美味しい料理が出てきた」ような気分です。ただそれって全体としてはどうなの? という。
カットのし過ぎで編集が変
ハリウッド映画においてプロデューサーは極力映画の上映時間が短くなるようカットをしたがるものです。というのも映画は上映時間に関わらず料金が一緒なため、上映時間が短ければ短いほど1日に上映できる回数が増えるので、より収益性が高くなる。
また映画が2時間以内だとお客さんが上映時間にギリギリ間に合わなくても「だったら買い物でもして時間を潰してからまた来よう」と思ってもらえます。
そもそも人間の映画を観る緊張感自体が通常であれば1時間半程度。持って2時間ということを考えれば、映画は短ければ短いほどメリットが有るのです。
さてこの『パワーレンジャー』においても恐らくプロデューサーが猛烈にカッティングを行ったようで、もはや「編集が変」と感じるレベルに話が通っていない箇所がいくつもあります。
例えば主人公のジェイソンは牛を盗んだイタズラによって警察に捕まり補習を受ける羽目になるのですが、そもそもなぜ牛を盗んだのかも理由がハッキリしません。
補習でジェイソンが最初に仲良くなるビリーも自閉症という設定にも関わらず、後半ではすっかり自閉症が出なくなっています。
中華系のメンバーであるザックは母親が病弱、トリニーはレズビアン、キンバリーは何かが原因でチアリーディング部とトラブルを起こす。
と、そういった設定にそれなりの尺を費やすのですが、最後までその設定が活かされることはありませんでした。
ダメな映画の典型である「設定だけはやたら練り込むけれども、それが物語の進行上、有効に作用していない」状態に陥ってしまってます。
恐らく撮影はしていたであろう「キャラ設定を活かした後半の活躍シーン」だけを切ってしまうのであれば、そもそも最初のキャラ設定を提示するシークエンスもまるごとカットしないと「えっ、最初に出てきたイタズラとかレズビアンの設定ってなんだったの?」と困惑し、映画自体にのめり込めず退屈してしまうのです。
こうすればよかった現代版『パワーレンジャー』
ここまで散々文句を言ってきましたが、ではどういう映画にすればよかったかと言うと「尺は90分程度に抑えて、『スタートレック』の様に常に小気味いいジョークを連発しているティーン向けムービー」にすればよかったんですよ。
主人公のジェイソンもイタズラが原因で補習クラスに通うことになるのではなく、「アメフトの試合中相手チームに味方のメンバーを侮辱され、それに激昂し乱闘騒ぎを起こしたことで自身も怪我を負って選手生命を絶たれ、そして騒動の責任を取るために補習クラスに通うようになった」ということにすれば彼の責任感の強さも際立ってシンプルかつ力強いキャラ設定になったと思います。
レズビアンという設定のトリニーも、自身のアイデンティティに悩みながらもパワーレンジャーとして迫りくる敵から街の人々を救うことで本当の自分の居場所や使命を見つけ、ラストには「目の前に広がる大きな使命の前では私がレズビアンかだなんて誰も気にしない。狭い世界で生きているからこそ無意味に悩んでしまう」と気づく…みたいな流れになっていればもっと良かったのかなと思います。
以上がハリウッド実写版『パワーレンジャー』のレビューでした。
やはりひとつひとつの要素は面白く、全体としては退屈はしない作品です。
(かといって特別面白いわけでもない)
このレビューを書いていれば書いているほど「もっと面白くできたろ!」と思ってしまう箇所が出てくるの、非常にもったいない作品でした。
※今回紹介した作品はAmazonPrime会員の無料体験でも視聴可能です。