他人の行動に苦言を呈するだけ呈すものの、じゃあどう行動すればいいのかは一切言わないのってみっともないと思うんですよ。
僕は一応「映画系ブロガー」でもあるので映画に関するニュースは幅広く触れているのですが、最近YouTubeで「ファスト映画」と呼ばれるジャンルが流行の兆しを見せているようです。
ファスト映画とは映画を10分程度のダイジェスト版にして、そこに時おりギャグなどを交えてストーリーを解説するものなのですが、再生回数100万回を超える動画が数十本も出てくるなど、YouTubeにひとつのジャンルとして地位を築きつつあります。
もちろん著作権的には完全にアウトでとても擁護できるものではなく、「映画は可能な限り劇場で(フル尺のまま)観るべき」という考えを持っている僕も「なんだかなぁ」と思うのですが、「映画は観たいけれど、仕事で忙しくて2時間のフル尺で観ていられない」という需要を見事にすくい上げたところは「そりゃ再生回数も伸びるわな」と言ったところです。(もちろん著作権的にはアウトなのですが)
そんな状況もあり、つい先日Twitter上でこのファスト映画が遂にやり玉に挙げられ炎上することとなりました。
著作権的にアウトな上、製作者の意向も完全に無視して勝手にダイジェスト版にしてYouTubeにアップするわけですから、批判されても致し方なしなのですが、数ある批判の中である方が「本来2時間ある映画を10分程度にしたもので満足するユーザーも、感性が乏しい」と言っていたんです。
映画界隈は日々「あの映画は素晴らしい」「これは駄作だ」というやり取りが激しく飛び合う戦場で、こういう「感性が乏しい」という言い回しは結構聞くのですが、僕はいつも「感性が乏しいって、それは何を基準に判断しとんねん」と思ってしまうんですよね。
もし彼らが本当に映画が好きで、2時間のフル尺で観ないことを憂いているのであれば、「感性が乏しい」という苦言とセットで「フル尺で観るとどんなメリットがあるか」が出てこないとおかしいんですよ。
「本当にお前はフル尺で映画を見てほしいと思っているんかい」と。「お前ほんとうは『感性が乏しい』と言いたいだけちゃうんか?」と。
別にこれは映画だけに限った話だけではないのですが、人になにかモノを勧めるときに「感性が乏しい」と言ったって、言われた相手は「そうか! 俺は感性が乏しいのか!! よーし感性を豊かにするぞ!!!!」なんてなるわけないじゃないですか。
もし僕がファスト映画を楽しんでるときに「感性が乏しい」なんて言われたら「は? フル尺で映画見たところでお前みたいな人間性しか身につかないんだろ? だーれがフルで観るかバーカ」としかならないんですよ。
僕はプライベートでもかねがね言っているのが、何か人にモノを勧めたいなら「これいいよ」と相手に直接売り込むのではなく、自分自身が楽しんでそのコンテンツを消費している姿を見せるのが一番なのです。
これを僕は「カップヌードル効果」と呼んでいまして、カップヌードルって人が食べてるところを見ると自分もめちゃくちゃ食べたくなりますよね。
職場で昼休みに誰かが食べてる匂いが漂ってくると「あー俺もう今日帰りにコンビニでカップヌードル買って食べよ」って思ってしまいます。
僕個人としては映画って素晴らしいコンテンツだと思っていて、映画は観客がどんなバックグラウンドを持っていても全く別の世界の人生を追体験できるんですよ。
たとえば名古屋に住むアラサーのオッサンである僕でも、映画を観れば差別に苦しむアメリカの黒人女性になったり、ひょんなことから世界を救うヒーローになったり出来る。またあるときは人間ではなく動物の人生すらも追体験できる。
だから僕としては出来れば映画は没入感が最も高まる劇場フル尺で観てほしいという思いはありますが、その一方で「映画の入口としてファスト映画があっても良いのかな」とは思います。
最初はファスト映画で気軽に作品を楽しんで、それで面白いと思えば本編を観てほしい。
なんというか世の中「かくあるべき」と言う人が多い気がしていて、コンテンツを楽しみ方なんて(法的な問題がクリア出来ているなら)なんだっていいんですよ。最初はファスト映画で何か面白そうなものがあればそれに飛びついてみればいい。
ファスト映画で「この映画面白い!」と思ってもらえたものを「フル尺で見るともっと面白いんだよ!」という補助線を引くのが我々映画界隈の人間の仕事なのではないでしょうか。
例えば自分の彼女や結婚相手を選ぶときだって、最初はなんだかんだ言ってビジュアルから判断するじゃないですか。ビジュアルが自分の好みで良いなと思って、そこから少し話してみて付き合う付き合わないを判断する。最初に「相手の性格はどうで、仕事はどうで、家系はどうで」ということを入念に調べてから近づく人はいないはずです。
正しい鑑賞スタイルでないとしても、そのコンテンツに触れる人がいなくなってしまったら元も子もありません。
「憂う気持ちも分かるが、業界が衰退してしまうような振る舞いはやめようぜ」と思った一件でした。
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